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ホリエモンの考える「新しいニュース批評の形」を勝手に考えてみる

みなさんはどう感じましたか?

image(引用元:日本経済新聞「もしホリエモンに「師匠」がいたら……起業家育てる米投資家」

2013年03月27日のホリエモンの仮釈放会見に詰めかけた報道陣は150人、ニコニコ動画を運営するニワンゴによれば生中継のライブ視聴者は12万人にも及んだそうです。

「また何かやってくれそうだ」「やせたね」「さすがカリスマだな」いろいろな感じ方があったと思います。私もTwitterで「ホリエモン 仮釈放」で検索してみて、いろんな人がいろんなことを感じているのだな、と思いました。

・旧ライブドア 堀江元社長が仮釈放(NHK)

・刑務所で28キロ減、堀江元社長会見 「ご迷惑かけた」(朝日新聞)

・ホリエモン改心「反省」謙虚に70分仮釈放会見(スポーツ報知)

・仮釈放の堀江元社長が会見「今後は社会貢献」(サンケイスポーツ)

・ホリエモンが仮釈放 早速ニコ生で「痔のエピソード」披露(J-CASTニュース)

「旧ライブドア」「28キロ減」「反省」「社会貢献」「痔」など、タイトルを見るとニュースの切り口は本当にいろいろでした。

私も「なんかたのしいことになるといいなー」なんてのんきに思っていたわけですが、ある一つのWebサイトを見て「はっ」としました。そのサイトはこちらです。

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livedoorNEWS編集部によるNAVERまとめ「堀江貴文氏が仮釈放、記者会見の様子を全文起こしでレポート」です。現時点でツイート数1,800件、いいね!3,000件、はてブ700件、Viewは26万を超えており、とても多くの人に読まれています。

この記事は、ほぼ即日で記者会見の様子をすべて文字起こししてました。「すごいなー」と思う反面、「あれ、この全文文字起こしがあれば、誰でもニュースの記事って書けるじゃん」と思ったのです。そして「はっ」と気づいたことは、「あーこれって報道陣150人もいらないってことだよね」ということでした。あれだけの数の記者の方々が、まったく同じ記者会見を基に、いち早く読者に記事を届けようとする。「これって無駄な労力では?」と言ってしまうと、ものすごく怒られそうですが、、、そんな違和感を持ちました。

期せずしてホリエモンは会見上で「インターネットを使った、新しい…ニュース批評の形、と言いますか、そういったところを事業化して行きたいなと、ひとつは考えているところですね」と述べていました。「これは偶然の一致!」とひそかに膝を打ちました。ホリエモンの仮釈放会見を見て私が感じたことが、ホリエモンの考える新しいニュース批評の形につながりそうな予感がしたのです。せっかくなので勝手に考えてみたいと思います。

まず、ニュースの作成過程を整理するとこのような図になります。

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「社会的出来事」はホリエモン仮釈放の記者会見ですね。ニュースメディアが最初にすることは、ある「社会的出来事」を「選択」して「取材」することです。今回、報道陣が150人もの大人数になったのは、たくさんのニュースメディアがこの記者会見を伝えるべきだと「選択」し、「取材」に訪れたのです。記者は取材」で得た情報に基づき、「記事作成」します。その記事を新聞の誌面に載せるべきかどうか、テレビのニュース番組の放送時間枠内で放送すべきかが「編集/整理」され、「印刷/放送」されることで読者や視聴者に届けられます。

さて、ネットが登場したことでいちばん影響を受けたのはどの過程でしょうか?

答えは「編集/整理」と「印刷/放送」です。考えてみれば当たり前ですが、ニュースメディアとしてのネットには、誌面や放送時間という“枠”の概念がありません。したがって、「編集/整理」しなくても記事にしたものは全部掲載してしまえばいいわけです。また、ネットでは「印刷/放送」の配信コストがほぼゼロに近づきつつあります。ネットが登場した当初は新聞などのニュースメディアもすべての記事を配信することに抵抗を示していましたが、各社が競争するなかで、より多くの記事がネット上で配信されるようになりました。

記事がネット上にたくさん掲載されることで起こったことは、いわゆるニュースのコモディティ化です。ニュースメディアの枠内にどの記事を掲載するかという「編集/整理」では差別化ができなくなったのです。今回のホリエモン仮釈放の記者会見のように、どのニュースメディアも取り上げるような記事の価値が相対的に下がったともいえます。

また、「印刷/放送」の“枠”という概念がネットにないゆえに、現在、起こりつつあることが“全文掲載”というネット文化です。

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たとえば、古い記事ですが、NHK「かぶん」ブログ(科学文化部)に「全文掲載:芥川賞受賞会見・田中慎弥さん」(2012年01月18日)というエントリーがあります。田中慎弥さんの「都知事閣下と東京都民各位のためにもらっといてやる」という発言が大変な話題となった会見です。私はテレビのニュース番組でこの会見を見て「なんて不遜な人だろう」という印象を持ったのですが、この全文掲載を見て爆笑し、「なんか田中さんって、いい人」と印象が変わったことを覚えています。「Q:お酒を飲まれていますか? → A:ワイン2杯くらい」って、おいおい普通にアルコール飲んで記者会見したんかいって思いました(笑)。この例に限らず“全文掲載”文化はあらゆるサイトで見ることができます。

ネット登場以後のニュース作成過程を整理するとこのような図になります。

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つまり、ある「社会的出来事」を「選択/取材」した「素材」をネット上にアップしておけば、そのあとの過程でどのような記事が作成されたとしてもファクト(Fact=実際に起こった事実)に遡ることができるのです。livedoorNEWS編集部がホリエモン記者会見の内容をNAVERまとめに全文掲載したこともまったく同じです。「その全文掲載の内容が間違っていたらどうするんだ」というご心配は無用です。YouTubeにその記者会見の動画を丸ごとアップロードすればいいでしょう。事実と異なっていればクラウドソーシング的に誰かが指摘するはずです。

さて、ここからが重要な議論です。一つの事実に気づくはずです。つまり、ある「社会的出来事」が「選択/取材」されて、ネット上に「素材」があれば、それをもとに自分なりのニュースバリューを見つけて「記事」作成することができます。そして、自分のブログやFacebook・Twitterなどで発信をすることで、誰もがニュースメディアになることができるということです。

逆から言えば、「素材(全文掲載)」がなければ新聞やテレビなど既存のマスメディアの情報をもとにしてでしか、私たちは意見を発信することができません。もし、ネットメディアでの議論が無知だとか衆愚だとか言われているのだとすれば、それはニュース素材へのパブリック・アクセスが限られているからではないでしょうか?

ネット上ではしばしば「マスコミが重大な事実を隠しているのではないか」という疑心暗鬼にも似た空気が蔓延することがあります。ニュース素材へのアクセスが実現すれば、そうした空気も少しは薄まるのだと思います。ニュースの「素材(全文掲載)」はネットで生産的な議論を生むために必要なインフラになると思います。

「わかった。記者会見のような発表報道はそうかもしれない。しかし、調査報道のように、ニュースメディアの主体的なテーマ設定に基づく継続的な取材はできないだろう」

私もここが最も重要なポイントだと考えています。つまり、どの「社会的出来事」を「選択」し、どのように「取材」するのか。これこそがネット登場以後に最も重要視しなければならないプロセスだと思います。調査報道の種類によっては取材源を秘匿する必要が出てくる場合もあるため、すべてのニュース素材をアクセス可能にすることは難しい。ゆえに誰もがニュースを発信することは事実上不可能でしょう。調査報道を実現するニュースメディアはやはり必要です。

ところが実際に起きていることはまったく逆で、ニュースメディアの独自取材は減る一方だと言います。新聞も発行部数が下がり、テレビも広告収入が落ち込んでいるため、本当は取材すべき「社会的出来事」がたくさんあるにもかかわらず、それを「選択」も「取材」もできないというのです。

「だったら記者会見の150人報道陣を効率的にすればいいんじゃないの」そんなことを素人である私は考えたわけです。ホリエモンの考える新しいニュース批評の形のヒントはここにあるのではないでしょうか。勝手に考えた図がこれです。

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新聞には記事を配信する共同通信社や時事通信社のような通信社という存在がありますが、ネットメディアにも新しい「ネット通信社(仮)」があればよいのではないでしょうか。ネット時代のニュースプラットフォームです。特徴は大きく分けて4つです。

(1)ダダ漏れせよ!

ポイントは“だだ漏れ”である点です。ニュースの記事をつくるのは各個人のブロガーであり、各ネットメディアの記者です。“だだ漏れ”の良い点は、全文書き起こし(テープ起こし)はスキル不要のタスクなので、クラウドソーシング化が可能であるところです。クラウドソーシングすることでコストが圧倒的に下がり、スピードも格段に上がります。実は個人的にも「LANCERS(ランサーズ)」というクラウドソーシングサイトでディスカッション動画の全文書き起こし依頼をしたことがあります。プロに依頼すれば「1分/200円〜300円」といわれるところ、クラウドソーシングでは「1分/40円〜100円」で依頼することができました。たとえば60分の記者会見やインタビューの動画を書き起こしてくれといえば、わずか数千円で行うことが可能です。「“だだ漏れ”した取材内容が事実でなかった場合はどうするのだ?」という懸念には、取材される人(インタビューイー)やユーザーがそれを指摘する仕組みがあればどうでしょうか。私はよくLINEのスタンプで「さっきのスタンプ送り間違えた、ごめん(_ _)」となることがありますが、それでトラブったことはありません(笑)。即時性+双方向こそネット最大の利点です。ついでにグローバルにニュースバリューの高い重要な「素材」はクラウドソーシング翻訳サービス「Gengo(ゲンゴ)」などで英語に翻訳して日本の情報を世界に発信するのも一つの手です。

(2)誰もがニュースを発信できる!

「ネット通信社(仮)」はあくまで「ダダ漏れ」ですので、それ自体はニュース記事ではありません。長くて読むのが面倒くさいですし、そもそも読みづらい。その素材を記者の視点でどう切り取って配信するかが各個人のブロガー、ネットメディアの記者の役割です。やる気さえあれば誰でもニュースを発信できます。「取材」と「記事作成」を「素材」という中間形態を設けることで明確に分業化すると、150人が同じ取材にいく必要もなくなるので効率的です。「素材」の利用についてはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスなど、個人利用と商用利用に関する一定のルールがあれば機能する思います。商用利用するニュースメディアからのライセンス定期利用料でマネタイズを考えることができます。

(3)取材先の「選択」に参加する!

現在のマスメディアの仕組みでは実現が不可能と思われるのが、ニュース作成過程のいちばん最初の工程「社会的出来事」の「選択」です。つまり、どの出来事を取材するのかを決めるプロセスに、ニュースメディア以外の人たちが参加することはとても難しいです。一方、「ネット通信社(仮)」ならば「◯◯◯◯◯に取材に行ってほしい」という声をネットから拾い上げることが可能です。また、記者会見そのものにも参加可能です。ライブ中に聞いてほしい質問を書き込んでもらえればいいわけです。「取材に行ってほしいところが多すぎて記者が足りなくなったらどうするんだ?」というご心配も無用です。なぜなら、わかりやすくいえば150人が同じ取材に行く必要がないため、残り149人が取材に行けるからです。さらに、“ダダ漏れ”なので取材した記者が「記事作成」する必要がないため、すぐに次の取材に行くことができます。

(4)調査報道は専属の記者がやる!

ニュースがコモディティ化し、報道が利益を生まなくなったときに最初に行われるのはコストカットです。そして、ネット登場以後のニュースメディアにおいて、相対的にいちばん高くなったコストは取材コストです。「これは社会的に重要な出来事だ」と思ってもコスト削減のあおりで自由に取材できなくなってきます。その調査報道のような機能を「ネット通信社(仮)」が発表報道などの取材を合理化することでリソースを生みだし、専属の記者(ジャーナリスト)が独自取材することで補えればよいと思います。日本版ウィキリークス的な内部告発機能を持たせると、さらに生産的かもしれません。

と、このように勝手に考えてみたわけですが、こうやって考えていくと「ネット通信社(仮)」は、「ニコニコニュース」「livedoorNEWS」が役割を担っていただいてもぜんぜんOKですね(笑)。もしくは、「キュレーション、キュレーションって言うけど、クリエーションも考えてくれよ」と言われがちな「NAVERまとめ」でもOKですね。以前「NAVERまとめ研究」でも考察してみましたが、ネットがこれから生活に欠かせないものになるためには、ネット上にクリエーションのための「素材(燃料?)」の量を増やすことが重要だと思います。まあ、私もお金さえあれば「ネット通信社(仮)」改め「全文書き起こし.com」でも立ち上げてこの新しいニュースの在り方を事業化しますので、ホリエモンとお知り合いの方、またはアラブの富豪とお知り合いの方、ぜひご紹介ください。なにごともアイデアなんて誰でも思いつけるので、資本を持つことが大事だよなーなんて思いつつ。

さて、全文掲載のダダ漏れが「素材」としてネット上にあることで、どんなことが起こるでしょうか? オンラインコミュニティの「1%ルール=90%:9%:1%」から考えてみましょう。下記のピラミッド図です。

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(引用元:Nielsen Norman Group「Participation Inequality: Encouraging More Users to Contribute」

ネット文化でよくいわれるのはユーザーの層は90%の読むだけの人、9%は何らかの貢献をする人、1%は積極的に参加する人に分かれるということです。「NAVERまとめ」登場以後のネット文脈に置き換えれば、ブログなどで積極的に記事を書いて発信する1%、まとめたり記事をソーシャルメディアでシェアする9%、残りは読むだけの90%です。

ブログを書く人はダダ漏れニュース素材があることで議論を深め、記事のクオリティを上げることができます。まとめる人は切り取り方の腕次第で、独自視点のまとめ記事がつくれるようになります。残り90%の読むだけの人の変化が特に重要です。切り取られたニュース記事のファクトに遡れるようになるため、たとえニュースメディアが偏った取り上げ方をしても、「偏った取り上げ方をしているなー」と気づくことができるようになります。それは私が「芥川賞の田中慎弥さんってけっこういい人かも」と思ったようなことです。もしかしたら、あまりに偏った切り取り方をするニュースメディアを批判する人が出てくるかもしれませんね。

その昔、ネット時代を象徴する市民メディアとして華々しく取り上げられたオーマイニュース」というニュースサイトがありました。なぜ失敗したのかを詳しく解説した記事もあります(参考:J-CAST「オーマイニュースはなぜ挫折したのか」)。さまざまな要因があったのだと思いますが、個人的に思ったことを言えば、結局のところ、取材スキルを持った人(数ある社会的出来事からニュースバリューの高いものを選択し、且つ取材でバリューを引き出せる人)はやはり希少であり、さらに記事にまとめるというのが一般の人にとっては非常に高いハードルだったのだと思います。日本人が得意なのは、たとえば「ネット通信社(仮)」の記者が初音ミクだとすれば、その記者に「どんなところに取材に行ってもらうか」「どんな質問をしてもらうか」など、記者とユーザーが一心同体になりながらみんなでクリエーションに参加することなのではないでしょうか。「オーマイニュース」の失敗を振り返るに、もしかしたら日本版オープンジャーナリズムはこんな感じなのかもなーと思いました。

オープンジャーナリズムといえば、「BLOGOS(ブロゴス)」「Yahoo!ニュース: 個人」などに続き、ソーシャルをうまく取り込み成功を収めている米国ニュースサイト「ザ・ハフィントン・ポスト」の日本版が朝日新聞と提携して2013年5月にオープンを予定するなど、各分野の専門家が意見や提案をするサイトが注目されています。しかしながら、専門家といえども全員が記事を書けるわけではありません。「ネットってよくわからないから、何を書いていいかわからない、書く時間がない」という日本人の専門家もまだまだ多く、取材で聞かれたことをしゃべる方が楽だという人も多いと思います。そうした間を埋める存在として「ネット通信社(仮)」が機能すれば面白いのではないかと考えました。

余談ですが、新聞業界の淘汰が進む米国において、ネットの有料購読を促すペイウォール化が進んでいることも気がかりです。お金を払った人しかアクセスできないところにパブリックはあるのでしょうか? マネタイズとコスト負担の問題は本当に厄介です。ネットを利用した効率化・合理化で対処するしかないのではないかと思います。弁当宅配だって「ごちクル」の例のようにITで効率化・合理化できるのですから、ニュースメディアだってできるはずです(参考:日経ビジネス「宅配弁当を月間10万食売る男」)。米国にはほとんどが寄付の資金で運営されているジャーナリスト集団のNPOである「プロパブリカ」もあるぐらいですから、ジャーナリズムに対する危機感は米国でも強いと思います。賛否両論ありますが、ある面では「ザ・ハフィントン・ポスト」の方がパブリックな場なのかもしれません。そして、日本の新聞業界も米国のペイウォール化の流れを踏襲している最中です。

さてさて、ニュースの新しい形ってどうなるのでしょうね。みなさんはどう思いますか?

勝手ながらホリエモンの仮釈放記者会見から“全文書き起こしダダ漏れ掲載”というネット文化が定着すればいいなと思い立ち、NOTEにまとめました。大学でマスコミュニケーション論を教えていただいた大石裕先生に感謝するとともに、卒論以来のニュースメディア論的な内容に我ながらビックリしております(笑)。

ご連絡や感想などははいつもどおりTwitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせください。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります(ときどき本当にありますから!)。ではまた。

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食べログ化する日本

「食べログの研究―レビューサイトがもたらした食文化と都市の風景」を読んでいたときに、はっとしたことが一つありました。それは「(食べログでは)コストパフォーマンスが高いレストランがランキングの上位を占める傾向がある」という指摘です。

image『PLANETS vol.8』より)

この記事は「dancyu」や「Hanako」といった雑誌文化が築き上げてきた食文化を、クチコミサイトである「食べログ」がどのように塗り替えてしまったかを解説する内容で、正面から分析されることの少ない「食べログ」を深く知れる、とても面白いものでした。

カカクコムの発表によれば、2012年12月末現在、「食べログ」の総ページビューは約8億7,750万PV/月、月間利用者数が約4,095万人/月(内訳=PC:2,285万人、スマートフォン:1,518万人、フィーチャーフォン:292万人)というメガサイトです。使ったことがないという人の方が珍しくなるほどの利用者数ですね。

■クラウドソーシング的に5段階の星の数で評価する

 “コストパフォーマンスが高いレストランの評価が高い”ということに、なぜはっとしたかといえば、それがユーザーでもある自分自身の実感に近いものだったからです。たしかに、食べログで3.5〜4.0ぐらいの高評価の店はコストパフォーマンスも良いことが多いと思います(4.0以上は高級店が多いです)。

「なんでだろう」とあまり深く考えたことがなかったのですが、よく見れば食べログの評価は「料理・味」「サービス」「雰囲気」「コストパフォーマンス(CP)」「酒・ドリンク」の5項目で評価されています。

imageコスパが明確に食べログでの評価項目となっているからこそ、レビュアーもコスパをきちんと評価しようという文化が育ったともいえますよね。ただし、「★」は不特定多数のレビュアーの単純平均ではなく、ヘビーユーザー(食通度合いの高い)の採点が大きく影響する独自のアルゴリズムがあるようです。

一方で、レストランを星で格付けする元祖といえば「ミシュランガイド」です。調査員がまわって「1つ星=その分野で特に美味しい料理」「2つ星=極めて美味であり遠回りをしてでも訪れる価値がある料理」「3つ星=それを味わうために旅行する価値がある卓越した料理」ということで、ウェブにおけるレビューの概念とは歴史も思想も文化も違う感じです。「ミシュランの星付きレストランで食べる」というのは特別感が漂いますね。一応、コストパフォーマンスが高い店に付く「ビブグルマン」というキャラクターのマークはあるらしいのですが、やっぱり普段使いじゃない感じです。っていうかビブグルマンって何だ。

で、日本には雑誌文化があったわけですが、評価基準は「dancyu」「Hanako」など雑誌に載った(or 載らない)しかなく、その基準も編集者が決めるので曖昧なことが多いです。(「おとなの週末」は覆面調査で結構詳細にランク付けしていた気もしますが、これも編集者が決めているのでしょうか……)

大仰に言えば不特定多数で「料理・味」「サービス」「雰囲気」「コストパフォーマンス(CP)」「酒・ドリンク」をクラウドソーシング的に5段階の星の数で評価する=数値化するという試みは、かつて食文化が体験したことがない現象です。いまさらながら、このことが面白いなと思った理由は“人間の主観的な認知を星の数に置き換えて記述する”という試みに思えたからです。言い換えれば“直感を可視化する”ということです。

■そもそも“直感”とは何でしょうか?

「直感」については、2012年11月刊行の、心理学者でありながら2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』がわかりやすい説明をしてくれていますので、参照したいと思います。

カーネマンは同書のなかで、直感的で感情的な「速い(ファストな)思考=システム1」と、意識的で論理的な「遅い(スローな)思考=システム2」の比喩をたくみに使いながら、人間の直感(=システム1)がいかに優れていながら間違うかについて詳細に書いています。たとえば下記の簡単な問題に答えてみてください。

 バットとボールは合わせて1ドル10セントです。

 バットはボールより1ドル高いです。

 では、ボールはいくらでしょう? (上巻p.66より)

直感にしたがえば答えは「10セント」です。「システム1」は記憶に蓄積されていた情報をもとに瞬時に答えを導き出すところに特徴があります。でも検算してみれば、ボールの値段をXセントとすると「X+(X+100)=110」なので「X=5」となります。5セントが正解です。「システム2」は「システム1」が提案した考えや行動を監視し制御することが主な機能の一つです。「バットとボール問題に答えた大学生の数は数千人に上るが、結果は衝撃的だった。ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、プリンストン大学の学生のなんと50%以上が、直感的な、つまりまちがった答を出したのである」と報告されています。

(他にも盛りだくさんの事例がありますので本をご参照ください、っていうかkindle版出たんですね……本が分厚すぎて2冊もあるので電子書籍で買えばよかったです『ファスト&スロー(上)あなたの意思はどのように決まるか? 』『ファスト&スロー (下)』

話を戻せば、食べログで5段階の星でレビューするとき「うーん、サービスは星4つぐらいか」と深く考えず直感的で感情的に(システム1で)評価することが多いと思います。一方、それを意識的で論理的に(システム2で)言葉にすることでクチコミになるのだと思います。星を付けた後に文章を書くという順番がポイントです。ちなみに食べログではクチコミ投稿は200文字以上です。

5段階の星の数で人間の持つ“直感を可視化”できるネットって、実はすごいんじゃないのって思いました。クチコミを読むだけじゃコスパが高いか低いかは直感的にわからないし、クチコミを読み込むのが面倒ですよね。(※ちょうど一年前ぐらいにあった食べログのステマ問題は携帯電話番号認証ができたし、アルゴリズムが解決するだろうと勝手に思っているのでこのNOTEでは触れません!)

■他のレビューサイトはどうなっている?

ここでレビューサイトがどのように“直感を可視化”しているかを見てみましょう。

imageAmazonは基本的に「5段階の星の数」と「クチコミ投稿(文章)」ですね。

image英語圏の食べログともいえるYelpもAmazonとほぼ同じ。同じく英語圏での展開がメインのトリップアドバイザーも同じですね。入力する評価項目が少ないとレビューが増えると予想できるので、レビューは質より量ということでしょうか。それとも英語圏が大雑把なのか、日本人が細かすぎるのでしょうか。

imageトリップアドバイザーと同ジャンルの楽天トラベルフォートラベルは評価項目が6つに分かれています。楽天トラベルが「サービス」「立地」「部屋」「設備・アメニティ」「風呂」「食事」となっているのに対して、フォートラベルは「アクセス」「コストパフォーマンス」「接客対応」「客室」「風呂」「食事」「バリアフリー」と微妙に評価軸が違いますね。

image食べログといいフォートラベルといい、カカクコムグループは評価項目がしっかりしてますね。価格.comは製品の種類ごとに評価軸が異なります。Goo-netを見ると車の評価項目って面白いなーと思います。「外観のデザイン・ボディカラー」「内装・インテリアデザイン・質感」「走行性能」「燃費・経済性」「乗り心地」「装備」「価格」「満足度」の8項目でした。

imageそういう意味で興味深かったのが同じカカクコムグループの映画.com。5段階の星に加えて「泣ける」「笑える」など12個の「印象」タグがあります。映画など映像は評価項目が多くすべて5段階にしてしまうときっと複雑過ぎるのですね。そういえばYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトもタグが一つの評価になっていました。

image@cosmeも同じく、「うるおい」「ニキビ」「美白」など効果・機能のタグがありました。化粧品で大事なのは効果や機能だということでしょうか。自由に付けられるタグもあります。

image結婚式場は飲食店のように評価軸が明確ですね。「みんなのウェディング」「Wedding Park」ともに詳細な評価項目を持っています。「料理」「スタッフ」「進行演出」「式場設備」「場所」「費用」など。成長が止まりつつあるホットペッパー・ぐるなび vs 成長が著しい食べログのように、一強ともいえるリクルートのゼクシィが今後どうなるか注目です。

image株式上場をするリクルートの行く末を考えると、最年少上場企業社長の村上太一さん率いるリブセンスが最近はじめた「転職会議」というサイトは興味深いです。最大2万円のアルバイト採用祝い金+成果報酬で躍進した「ジョブセンス」も大成功でしたが、「転職会議」で行われつつあることはどうみても会社の食べログ化です。主な評価項目は「給与水準」「企業の安定性」「企業の成長性」「将来性」「仕事のやりがい」「企業の理念と浸透性」「ブランドイメージ」「社員の雰囲気」「入社難易度」「福利厚生」「教育、研修制度」など。サブで社風に関する項目があるのもすごいですね。入力が複数項目5段階評価の直感的な選択だけで出来る点も目を見張ります。ノイズとなる評価情報がきちんと淘汰されて機能するのかに要注目です。食べログを見れば一目瞭然ですが、情報が集まるところに人は集まるものなので、やり方によっては人材ビジネスが激変するかもしれませんね。

■食べログ化する日本

そう考えていくとCGM(Consumer Generated Media)が「クチコミサイト」と呼ばれる時点でミスリードな気がしてきます。たしかにクチコミによる言語化で検索エンジンには引っ掛かりやすくなるので必要な要素ですが、これからの時代“人間の主観的な認知の可視化”はもっと需要の増える要素ではないでしょうか。“直感の可視化”の方がひと目でわかりやすく情報の価値が高くて重要な気がします。(言い過ぎでしょうか?)

スマートフォンが普及しつつある今、人間はもっと“直感を可視化”してもいいと思います。言い換えれば、アトム(形あるモノ)がビット化(情報化)する余地はまだまだあるのではないでしょうか。先述の例では、特に会社をビット化しようとしている「転職会議」に期待してます。みん就(みんなの就職活動日記)のクチコミは就活情報としては役立ちましたが、そもそもの会社選びにはほとんど役に立たなかった記憶があるので。「若者はなぜ3年で辞めるのか」じゃないですが、会社情報の食べログ化は学生と会社のミスマッチの確率を下げる一つの方法になるのではないかと感じました。「文化となるWebサービスを、つくる」という会社のスローガンに偽りない感じですね。全力で日本の就活文化をぶっ壊してくれ。すごいぞリブセンス。

これからも日本の食べログ化、世界の食べログ化は進むのだろうなーと思います。いや、個人的に思い込んでいるだけかもしれません。もっと人間の“直感を可視化”できれば社会や文化が変わるかもしれない。そんな予感だけで久しぶりにNOTEを書いてみました。ITやネットが本当の意味で革命を起こすのはこれからが本番でしょう。

よたばなしかもしれませんが、人間を食べログ化できないだろうかと妄想することがあります。Twitterのフォロワー数でその人への興味を可視化するだけだと世の中がつまらなくなるんじゃないかと思うのです。ネットワーク効果により古参のTwitterユーザーほど有利なのは目に見えているし、古参ユーザーが偉そうにするだけだし(超偏見)。Amazonの5段階評価と原理的には似てますよね。0か1かの2段階評価というべきか。その意味では影響力を可視化するKloutも原理は同じです。マーケティング的にはいいのでしょうが、なんだかなー。つまらないです。(ツイートは面白くないけど)すばらしい人はたくさんいますよね。さらにいえば、人間は成長し続けるので「最近の評価(Recency)」に重みをつけるとか何らかのアルゴリズムがあった方がいいと思います。まあ、評価項目が何百本何千本もあると思うので不可能に近い話ですけど。SF小説のネタにどうぞ。

■告知と雑談など

ちょうどいいタイミングなので告知に協力したいと思うのですが、冒頭の記事「食べログの研究―レビューサイトがもたらした食文化と都市の風景」を書いた川口いしやさんが出演するニコニコ生放送が本日1月29日(火)このあと21時からあるみたいです。PLANETS編集長の宇野常寛さんに加えて、けんすうさん(!)が出るとか。内容は「LINE論」や「食べログ論」とのこと。2月9日(土)夜には宇野常寛さんのトークイベントもあるそうです。

思い出したように書くのですが、以前LINEについてNOTEに書いたように(未来としてのLINE)、LINEのスタンプこそ「システム1」の直感的で感情的な思いを言語化せずに伝える方法だったりしますよね。NOTEに「メールの文字を打つよりも先に、今の感情に近いスタンプを探す自分がいる」と書いたことは、今回の話にもつながっていたりします。その意味でLINEのスタンプが可視化しているものは人と人との非言語の絵文字によるコミュニケーションですが、人は好きな絵文字のキャラクターを選ぶので人のキャラクターの“好み(preference)”という直感も記述が可能かもしれません。キャラクターの好みをビット化できるとかちょー面白い予感がします。キャラクター市場は世界的にも有望な市場ですし「このキャラクターが好きな人はこのキャラクターも好き」とわかるとマーケティングもしやすいですよね。近い未来に日本人のキャラクターの好みと欧米のキャラクターの好みの差を記述できる状況とか、ソーシャルゲームにとってはキラーファクターになる予感がしますが、みなさまの意見はいかがでしょうか?

このNOTEは『PLANETS vol.8』「Chaotic Pod 2013 Tokyo」での議論から刺激を受けて書きました。いろいろな刺激をいただいたみなさまに感謝を申し上げます。ありがとうございました。そしてそろそろ本業の本をつくらないとって思います。本も動画と同じように評価項目が多すぎて5段階評価しかされてない典型ですね。ブクログが何とかしてくれないかなと期待。クラウドソーシングが流行っているので、クラウドパブリッシングな感じで電子書籍をつくってみたいのですが、このNOTEを興味を持って読んでいただけるような同じ方向性を持たれる著者の方、よろしければご連絡くださいw。あとクラウドパブリッシングのWebサイトをいっしょにつくってくれるプログラマーや編集者もw。そんなマッチングサイトあったら便利なのになー。

ご連絡や感想などははいつもどおりTwitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせください。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります(ときどき本当にあります!)。

ではまた。

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未来としての「LINE」

2012年8月13日に「LINE(ライン)」の「ホーム」「タイムライン」機能がiPhone版に対応したことで、どんなことが起こるのだろうとワクワクしてます。

最初に申し上げておくと「LINEはFacebookに勝てるのか?」「mixiはどうなるのか?」など、ネット上ではSNSの覇権争いに関する記事が多いですが、そこにはあまり興味がありません。もちろん「ダウンロード数が◯◯◯◯万人を超えた」「利用者数が◯億人に」とか見た目にはインパクトはあるのですが、株式公開したFacebookのマネタイズはこれからなわけですし、ビジネスパーソンとしては冷静に見ていればいいのではないでしょうか(参考:日本経済新聞「米フェイスブック、理念先行に投資家じれる「成長限界」説も」)。また、セキュリティやプライバシーを巡る話、また未成年者の利用についての議論も必要だと思いますが、あまり興味を持っていません。

もっと大きなトレンドとか、パラダイム・シフトが起きるかどうかを考えたいと思いました。私が「LINE」の何に注目しているのかと言いますと、(1)スタンプ(Stamp)、そして(2)影響力(Influence)の二つです。順番に考えていきましょう。

■「LINE」のスタンプはメイド・イン・ジャパン

まず、「(1)スタンプ」について。 NHN Japanの森川亮代表取締役社長のインタビューの一言が興味を引きました。

「スマートフォン上のサービスについては、フィーチャーフォンでiモードが成長した時と同じような変遷をたどるという仮説を立てていました。日本のコミュニケーションサービスでは絵文字やデコメ的なものがフィットするのではないかという仮説のもとにスタンプを出したところそれが当たりました」(週アスPlus「LINEが急速に伸びた理由をNHN森川代表に聞く」

「特に台湾ではスタンプのキャラクターがタレント並みの人気になっているようです。これは私の仮説ですが、象形文字である漢字を使うアジア人は、意味よりも見たままで表現するというコミュニケーションが文化的にあると考えています」(同上)

そもそも「LINE」というアプリ自体が携帯電話における”通話”や”SMS・MMS”のリプレイスですが、スマートフォンで絵文字・デコメまでを視野に入れたところはさすがだなぁと思っています。スタンプってほんとにすごい。

特にガラケー的絵文字・デコメからスマートフォンにバージョンアップするのにあたり”リアルタイム性”を取り入れたところ。以前のNOTE(「なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?」)で「LINE」について触れたことがあるのですが、スタンプは「メール本文=文字」とは切り離されており、押すとスタンプだけで相手に送信されます。”スタンプ”というネーミングどおりです。また、画面上に「既読」というステータスがさりげなく表示されるので、半ば強制的に即レスが求められます。mixiの足あと機能にも通じるメイド・イン・ジャパン的なアーキテクチャですよね。(mixiの「足あと」に関する考察は濱野智史『アーキテクチャの生態系』のp134あたりをご参照ください)

■人間は言語よりも感情が先立つ生き物

私は「LINE」をもっぱら夫婦のやり取りで使うことが多いのですが、ビックリするのはメールの文字を打つよりも先に、今の感情に近いスタンプを探す自分がいることです。同じ経験をされていらっしゃる方がいらっしゃるのではないでしょうか。

言い換えれば、そもそも人間は言語よりも感情が先立つ生き物であり、ソーシャルメディアに”リアルタイム性”が求められる今、その発信は感情的な言語でされることが多いのかもしれません。このことから、感情が先走ったTwitterのツイート(言語化)により、炎上する人が多いことも納得がいきます。

「Twitterなどのソーシャルメディアが人を暴力的にしている」という議論があるとしたらそれはたぶんナンセンスで、むしろソーシャルメディアがリアルタイム化しているからこそ言語よりも感情が先立ち、その感情的な言葉が炎上を起こしていることが多いように思われます。むしろ、炎上などと呼ばずに「ツイートは感情が先走るものだ」という理解がもっと広まるといいのかもしれないですね。

■キャラクターを介したコミュニケーション

さて、スタンプのようなビジュアルによるコミュニケーションは言うまでもなく大きなトレンドです。キーワードを挙げれば、「Pinterest(ピンタレスト)」「FacebookのTimeline(タイムライン)」「インフォグラフィック」「データジャーナリズム」などです。ここらへんも詳しく書きたいところですが長くなるので、またの機会にします。

ビジュアルの中でも、今回は特に”キャラクターを介したコミュニケーション”という点には注目したいと思います。日本人にとってはマンガ・アニメ・ゆるキャラなど、日常的に馴染みがありすぎてわからないことなのだと思いますが、キャラクターの人格が人間に影響力を持つ点は、メイド・イン・ジャパンをグローバルへ輸出する際には重要なフレームワークになるのではないかと予感しています。たとえば、下記の図で工事現場の標識を日本と米国で比べてみましょう。なぜ、工事中だということを知らせるのにキャラクターが必要なのでしょうか。

左「Photo:Japan Signs: Sewerage Under Construction By zonjineko」右「Photo:Day 227 - Road construction By Karin Beil」

日本人のマンガ文化、恐るべし。「LINE」がアジア圏を中心に世界へ広がっているなどビジネスがフラット化する中、このキャラクターを介した”人間への影響力”はもっと考察を深める必要があると思います。もちろん、「LINE」の場合はそのキャラクターの裏に生身の人間がいるからこそ円滑に機能しているわけですが、日清食品チキンラーメンのひよこちゃんにしてもローソンのあきこちゃんにしても、企業がキャラクターを介してコミュニケーションをとる事例の多さは、日本が世界でいちばんなのではないでしょうか。ライバルの韓国「カカオトーク」との違いはスタンプの”リアルタイム性”と”かわいさ”などの日本的なものにいちばんよく出ていると思います。

もちろん、有名なところではTwitterがつながらないときに出てくる「くじら(Fail Whale)」などがいますよね。ただ文字だけで伝えられるよりも、くじらだとなぜか納得してしまう。不思議です。

こうしたキャラクターを介した人間への影響力を考察した例としては、スタンフォード大学でCaptology(Computer as Persuasive Technologyの略)を研究しているB.J.フォッグがいます。フォッグは著書『実験心理学が教える人を動かすテクノロジ』のなかで、コンピュータのなかのキャラクターが身体的な特徴や心理など5つのソーシャル・キュー(社交的な合図)を持つことで、人はより説得されることを実験により明らかにしています。ちなみにフォッグが研究の転機になったのは、1996年にバンダイから発売された「たまごっち」が一世を風靡したときだったそうです。ここでもメイド・イン・ジャパン。すごいです。(参考: affective design「An Interview with Dr. BJ Fogg – Pt.1」)。

■インターネットとマスメディアは何が違うのか?

ここまでは「LINE」のスタンプがメイド・イン・ジャパンとしておもしろいという話でしたが、ここで次の「(2)影響力(Influence)」の話題に移りたいと思います。

すでに語られていることですが、FacebookやTwitter、そしてmixiやLINEといったソーシャルメディアは今までのTV・新聞・雑誌・ラジオといったマスメディアとは全く異なるものです。ソーシャルメディアは基本的には自らも発信する能動的なメディアであり(Read Onlyの人もいますが)、受動的に内容を受け取るマスメディアとは性質が異なります。ソーシャルメディアは基本的に双方向であるため、その隙間に広告を入れてもなかなか人に”影響”を与えることができていないのです。

一方、マスメディアでは人は受動的に内容を受け取るため、人の購買行動に影響力を持つことができました。だからこそ、広告クライアントはそのメディアの枠を買って自社商品の宣伝をします。インターネットも登場してばかりの頃は、ポータルサイトのバナー広告などが代表例ですが、従来のマスメディアと同じ構造を持っていました。

ところが、インターネットはコンテンツを見る・読むという意味では受動的でありつつも、ハイパーリンクでつながっている構造であったため、ユーザーは能動的にクリック(行動)しながらコンテンツを探すという二重の構造を持っていました。そこから、インターネットならではの広告形態が生み出されていきます。

■Googleはメディアではないのに広告で莫大な収益を得た

それをいちばんうまく利用したのがGoogleです。ユーザーがたどり着きたいコンテンツへのアクセスを、ユーザーに「キーワード入力→検索」という行動を通して提供しています。Googleを”検索メディア”と呼ぶ人はあまりいません。なぜなら、Googleは” 影響力”という観点ではそもそも議論できない能動的なアーキテクチャだからです。検索エンジンでユーザーが「キーワード入力」をしている時点で、すでにその前に何らかの”影響”を受けているずだからです。消費者の購買意思決定プロセスを書くとこのようになります。(参考:青木幸弘ほか『消費者行動論』

たとえば、テレビで「毎日寝るベッドのマットレスは洗えない。だから除菌ができるP&Gの消臭剤ファブリーズ」というCMが流れたとします。テレビを見ていた人が「そうね、マットレスは洗えないわね」と思った時点で、このCMは消費者の「問題認識」に”影響”を与えているということです。次の「情報探索」に使われるものの一つがGoogleなど検索エンジンだということです。

つまり、Googleのリスティング広告(検索連動型広告)における広告クライアントは、消費者が「情報探索」する時点の「選択肢」を提供することにお金を支払っているのであり、消費者に「問題認識」を与える”影響力”にお金を支払っているわけではありません。それにもかかわらず、Googleはその収益のほとんどを広告からもたらしている点、世界一美しいビジネスモデルだと思います。

消費者の「選択肢」の上位にもともと入っている広告クライアントのなかには、検索エンジンのリスティング広告をやめるところもあるようです(参考:通販新聞「ブックオフオンライン、検索広告廃し利益10倍に、商品値下げで購入率増」)。宣伝を担当されている方は「自社ページの検索順位」以外にも「自社の商品はユーザーの選択肢の何番目にあるのか」という視点でリスティング広告を考えるとよいのだと思います。

■LINE公式アカウントはメールマガジンに似ている

話がそれましたが、Facebookがマネタイズに苦労していることからもわかる通り、双方向であるソーシャルメディアを広告メディアとして捉えることには限界があるのかもしれません。「LINE」が席巻しているスマートフォンなどのモバイルは、PCに比べてさらに物理的に広告スペースが狭いため、広告メディアとして人の購買行動に”影響力”を持つことは非常に難しいと思います。Facebookがモバイルで「記事形式のスポンサー広告」を試していますが、やはりユーザーの使い勝手を考えると広告スペースに限界があります。(参考:TechCrunch「Facebookのモバイル広告は有効だった」

広告スペースに限界がある点はLINE公式アカウントも同じです。企業アカウントなどLINE公式アカウントをフォロー(友だちに追加)してみるとよくわかるのですが、今のところメールマガジンとほぼ同様の仕組みです。その点については、いつも日経流通新聞(日経MJ)で連載をたのしみにしている通販コンサルタント村山らむねさんの記事でも指摘されています。

「今は10社に足らない公式アカウント。初期費用が200万、月額利用料は150万円からに設定されている。最初の20社くらいは投資以上に大きなリターンを手にするだろう。100社近くになると、公式アカウントに複数登録した人は、通知設定をオフにする可能性が高くなるはずだ」(日本経済新聞「企業の導入相次ぐライン、快適さ失えば着信「オフ」に」

現状の「LINE」はネットワークがゆえに先行者優位の市場になっています。LINE公式アカウントにいちばん最初に参加したローソンや日本コカ・コーラなどが友だち数も多くメリットを享受するのは、ネットワーク科学的な「優先的選択」を考えても当然のことです。まあ、それでも「LINE」のスタンプショップは絶好調で、2012年7月中旬までのスタンプ販売の売り上げが約5億円に達した点、スタンプ販売できちんと収益を上げているのだからすごいの一言ですが(参考:ロイター「インタビュー:「LINE」、ドコモなどと提携の可能性=森川社長」)。

■影響力をユーザーに委ねる

「じゃあ、LINEをマネタイズするにはどうしたらいいんだ」ということの一つ目の回答が、先日2012年7月3日に発表された新戦略の一つ「LINE Channel」でした。ひとことで言うならばスマートフォンのガラケー有料コンテンツビジネス化です。「ガラケー=iモード → スマートフォン=LINE Channel」の構図です。

実際に発表された「LINE Channel」とガラケー時代の有料コンテンツ・ビジネスとの共通点は多く、「絵文字・デコメ=スタンプ・LINE Card」「着うた・着メロ=サウンドショップ」「ケータイ小説=LINEトークノベル」「ゲーム・占い・クーポン=そのまんま」って感じです。(参考:ITpro「LINEプラットフォーム化の威力とiモード分離という思考実験」

でも、せっかく「ホーム」「タイムライン」機能が追加されたので、もう一歩先を考えたいですよね。以前このNOTEでも、LINEと同じくNHN Japanが提供する「NAVERまとめ」についての考察(「NAVERまとめ研究」)を書きましたが、私は”影響力をユーザーに委ねる”ということが「LINE」でも起こらないだろうかと妄想しています。つまり、企業が直接に情報を発信するのではなく、「ユーザーが自発的に発信したくなるようなことを、企業がLINEの中で効率的に提供できないのだろうか」ということです。GPS、カメラ、タッチスクリーン、人間のいちばん近くにあるデバイスであるなどスマートフォンの特徴を活かせば何かできそうな気がします。

日清食品のひよこちゃんスタンプが1日に400万件以上使われている(参考:ITpro「LINE公式アカウント国内36事例まとめ&ランキング」)事実を考えると、ユーザーが発信したくなる何かを考えていくのが自然です。といっても、それはNHN Japanが考えていくことですので、ここらへんで深入りはやめましょう。

このNOTEでは「LINE」を(1)スタンプと(2)影響力という二つの視点から見てきましたが、考察は以上です。

ついに「LINE」のソーシャルネットワーク化が進行する中、いよいよモバイルにおけるソーシャルネットワークのフロンティアでどんなことが起こるのだろうとワクワクしている今日この頃です。

告知など

このNOTEを過去に読んでいただいたことがある方はご存じかもしれませんが、テーマとしてはこの一年「ゲーミフィケーション」を追いかけてきました(「なぜゲーミフィケーションは効果的なのか?」など)。その結果、書籍『ゲーミフィケーション』『ゲームにすればうまくいく』などの編集を担当し、また「ゲーミフィケーションカンファレンス」などの企画にも参加しました。そして今、興味を持っていることは、ソーシャルネットワークのクラスターのなかでどのように”感情的な気持ちの盛り上がり(祭り?)”をつくっていくかの方法論であり、ソーシャルメディアが個人の”影響力”を増大させている大きなトレンドです。このNOTEはこれらの興味から書きました。

オンライン上のソーシャルネットワークが普及した現在、その”影響力”の主役が企業やメディアから個人に移っています。一時期、「評価経済」という言葉に注目が集まりましたが、「お金じゃなくて評価だ」と言うよりも「個人の影響力が可視化されている」という言葉の方がわかりやすいのかなと考えてます。「権力/影響力=Clout」という意味の英単語を文字ったオンライン上のソーシャルな影響力を測る有名なサービスに「Klout(クラウト)」がありますが、その得点(Kloutスコア)に応じて得点の高い人は、企業やブランドから航空券や宿泊先のホテルでの特典を受けられます(参考:SankeiBiz「一般個人の影響力 数値化に成功」)。個人の影響力が誰にでも換金可能なものになってきていることに驚くばかりです。その意味から、ソーシャルメディアにおいては”評価”という言葉よりも”影響力”と言い換える方がフィットすると思うのですがいかがでしょうか。

そして、私は出版社で編集という仕事をしていますが、主役は雑誌などのメディアではなく、ソーシャルネットワークで”影響力”を手にしつつある著者に移っていくのではないかと考えています(もちろんソーシャルネットワークに参加してない著者もいます)。直近で参加した仕事の一つに2012年8月13日にオープンした「ジレンマ+」というWEBサイトがあります。このサイトはまだベータ版の位置付けですが、このような前提の上で”どうすれば著者の影響力を増大していけるのか”という視点コンセプトに基本設計をしています。

このサイトの中で「なぜフェイスブックで3,000人友達がいる人は成功できないのか?」というタイトルで、ノマドワークスタイルが注目を浴びている安藤美冬さんと、ネットワーク科学の分野で『私たちはどうつながっているのか』など多数の著作を持つ増田直紀さんの対談を企画&ライティングの担当をいたしました。全5回で配信予定です。ネットワーク科学はまじでおもしろいです。ぜひご覧ください。

ネットワーク科学といえば、ポール・アダムス『ウェブはグループで進化する』もおもしろい本でした。読んだきっかけはTechWave編集長の湯川鶴章さんのこの記事です。著者は Google+をつくりいまFacebookいる人で、ネットワーク科学・脳科学・行動経済学・社会心理学など、いまITやメディアで必要な学問が簡潔にまとまっていました(注:物語性は全くありません)。誰にお願いされているわけでも、アフィリエイトでもありませんが、このNOTEみたいな長い文章を読める人にはオススメしてます(笑)。

ご連絡や感想などははいつもどおりTwitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせください。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります。

ではまた。