NOTE by Hiromi Kubota

5月 10

「NAVERまとめ」研究

しばらく本業の本づくり(編集業)に専念してました。NOTEを書こうと思ったのは久しぶりです。きっかけは「モバツイ」の作者、えふしんさん(@fshin2000)のツイートでした。

(引用元:「えふしんさんのツイート」) 

えふしんさんが疑問を持たれたのは、「NAVER(ネイバー)まとめ」が、まとめをつくったまとめ作成者にアクセス数に応じてお金を支払うモデル、つまり金銭的なインセンティブを設定しているため、長期的にはどうなるのかという点なのだと思います。今のところ「NAVERまとめ」はものすごい勢いでアクセス数を獲得しています。

NAVERまとめ http://matome.naver.jp/

(DoubleClick Ad Planner推定値より)

アクセス数が伸びている理由は「まとめ」を作成するユーザー(まとめ作成者)が増加傾向にあるからでしょう。ここ最近のことですが、はてなブックマークでもホッテントリにNAVERまとめがかなりたくさん入るようになってきました。

NAVERまとめ」仕組みのおさらい

転機となったのは201231日から新たに導入された「新まとめインセンティブプログラム」です。仕組みをかんたんにおさらいしましょう。

(引用元:「NAVERヘルプセンター まとめインセンティブについて」

NAVERまとめ」では、まとめを作成する人に対して広告収益を還元しています。ここで「ポイント」とあるのはNAVERによれば「まとめのアクセス集計を元に不正アクセスなどを除外する仕組で弊社が独自に算出する評価指標」とのこと。詳細は非公開ですが、ページビュー数ではないそうです。ここでは、まとめページを訪れるユニークユーザー数としておきましょう。この仕組みがまとめ作成者増加にうまく機能しているのです。

■「NAVERまとめ」は長期的に見てもユーザーをお金で動機づけられるのか?

ここで一つ疑問が思い浮かびます。「報酬が金銭的インセンティブに変わると、”たのしみ”でしていた作業は”報酬をもらうため”という別の動機づけに置き換えられてしまい、とたんに”たのしくなくなる”」と書いたクックパッドと楽天レシピを比較した私の過去のNOTE(初めてNOTEご覧になる方は過去のエントリーをご参照ください)では、金銭的インセンティブでは短期的にはユーザーを獲得できても、長期的には動機づけられないことになっています。

NAVERまとめ」は長期的に見てもユーザーをお金で動機づけられるのでしょうか? 3300回を超えるfacebookの「いいね!」をいただき、1200回を超えるTwitterの「ツイート」をこのエントリーでいただいた手前、これは「NAVERまとめ」についても深く考えてみなければと思いました。えふしんさんの素朴な疑問ツイートからもう1カ月も経ってしまうので、ここで一度、NOTEに「NAVERまとめ」の考察をまとめたいと思います。

みなさんは「NAVERまとめ」も、長期的に見れば楽天レシピのようにアクセス数が鈍化すると思いますか? 結果を考察するよりも、未来を予想する方がむずかしいものですよね。ある程度の勝敗が垣間見えたクックパッドvs楽天レシピとは状況が異なります。このNOTEにおける結論から言えば、(運用次第では)NAVERまとめ」のアクセス数は伸び続けると思います。なぜでしょうか?  順を追って考えていきましょう。

「まとめ作成」にクリエティビティは必要なのか?

復習になりますが、創造性の高い作業ほど金銭的インセンティブが裏目に出ることが多くなります。たとえば、レシピの投稿は「どうやったら、おいしくなるのかな」「調味料の分量を変えてみるか」「こうしたらもっと時間短縮になるかもしれない」など、工夫をたのしむクリエイティブな作業です。一方、報酬が好成績をもたらすのは認知スキルとは無関係な機械的能力が要求される課題です。紙でとったアンケート結果をひたすらPCのエクセルに入力し続けるだけの退屈な作業などを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。大まかに前者を「頭を使う仕事」、後者を「体を使う仕事」と言い換えてみましょう。(裏付けについての解説はダン・アリエリー『不合理だからすべてがうまくいく―行動経済学で「人を動かす」』など書籍をご参照ください)

まとめ作成は「頭を使う仕事」でしょうか? 「体を使う仕事」でしょうか? 正直に言えば「NAVERまとめ」の仕組みを見てみると、両方の要素を含んでいると思いました。

たとえば、こちらのすばらしい考察がされているエントリーなどをご覧ください残念と呼ばれた日本のWebではてなまとめが失敗しNAVERまとめが伸び続ける理由」。ここで紹介されているとおり「表示されてる画像自体が丸々2chまとめブログから転載」したまとめがあるなど、かなりの労力と「頭を使う」ブログよりも、手際よく効率よくまとめて数撃ちゃ当たる「体を使う」作業といった色合いが比較的強いと思います。「わずか5分で完成してしまうNAVERの画像まとめがどれくらい楽なのかをレビュー」NAVERでよく見かけるはてぶ○○以上の記事まとめの作り方」などの記事からもわかるように、まとめ作成者に提供されている仕組みも手軽さや効率性をうまくサポートしています。

その一方で、まとめ作成は「頭を使う」部分もありますNAVERまとめでどれくらいの売上になるのか実験|NAVERで稼ぐことは可能か?」「【レポート】NAVERまとめの奨励金説明会&ワークショップに参加してきました!」などのまとめ攻略記事を読むと、「ニッチなロングテールを狙う」「トレンドの波にのる」など、ある程度の「頭を使う」戦略も必要なのだとも思います。

ただその日に話題になったニュースや、芸能人・アイドルの画像をまとめただけのページが高いviewを稼いでいるのを見ると、「頭なんて使ってないじゃないか」と膨大な時間と労力をかけて文章を書いているブロガーは言いたくなってしまうものですが、一概にそうとも言い切れません。したがって「まとめ作成」は一定のクリエティビティを必要とする作業であり、本来ならば金銭的インセンティブは裏目に出るはず。ですが、今のところ、そうなっていません。なぜでしょうか? 疑問は次の話に続きます。

NAVERまとめ」はソーシャルメディアへの最適化に比重を置いたメディア

WEBサイトのアクセス流入元は検索エンジンからソーシャルメディアに移行しつつあります。WEBサイトを運営している方やブログを書いている方ならば、すでに実感があることでしょう。

例えばクックパッド、楽天レシピなどのCGMインターネットなどを活用して消費者が内容を生成していくメディア)は、検索エンジンで上位になるようにSEO(検索エンジンへの最適化)がなされています。ともに「レシピ数」を競うのは、コンテンツの量がSEO上で重要だったからです。とにかく情報をたくさんアップして、自分のコンテンツにたくさんリンクさせることがSEOにおいては重要でした。詳しく知りたい方は「Quantity()Quality()に勝っている」などの発言があるQ&AサービスQuora創業者の講演をまとめていただいている、こちらのサイトをご参照くださいQuora創業者の話を聞きながら思ったこと」

検索エンジン時代のWEBサイトアクセス流入施策を知るためのわかりやすい例として「コンテンツファーム」という存在があります。以前、このNOTEでも取り上げたこともありますが、コンテンツファームとは、ファーム(農場)という言葉が示すように、ライターを大量に組織して、検索エンジンに引っかかりそうな記事をとにかく書かせるというビジネスモデルです。米国ではDemand Media社のeHow、日本ではnanapiが代表的なコンテンツファームです。例えばnanapiは「1記事100円~500円相当」でライターを組織しています。この点では「1レシピ50円相当」とする楽天レシピと同じです。どちらにせよ1記事◯◯円」「1レシピ◯◯円」という評価軸は、コンテンツの内容(質)ではなく量やスピード、いかに非リンクを受けるかがSEO上で重要だからこそ生まれたものです。

一方、まとめサイトなどのキュレーションメディアは検索エンジンではなく、まず「人にシェアされること=ソーシャルメディア」にコンテンツを最適化します。キュレーターが「人」がクリックしたくなる内容のニュースにシェアされやすいタイトルをつけてSMO(ソーシャルメディア最適化)を目指したのです。ソーシャルメディア時代に勢いをつけたニュースサイトに「ロケットニュース24」NEWSポストセブン」がありますが、まとめサイトとタイトルの付け方などが似ています。これらのニュースサイトも「人にシェアされること」に最適化しているのかもしれません。

つまり、NAVERまとめ」などキュレーションメディアはソーシャルメディアへの最適化に比重を置いたメディアです。ここで言いたいのは、検索エンジンをないがしろにしているということではありません。これはSMOSEO」というプライオリティの問題です。アクセス数の増加を目的とするWEBサイトは、何に最適化するかによって内容や構造が変わります。キュレーションメディアの登場は検索エンジンからソーシャルメディアへと最適化のプライオリティが移行する中で生まれた必然です

下記はnanapiのアクセス数推移グラフですが、NAVERまとめと比較すると若干ですが伸び悩んでいるように見えます。検索エンジンからソーシャルメディアへのパラダイムシフトを反映しているのでしょうか。推定でありアクセス解析のデータを見ているわけではないのではっきりとはわかりません。(蛇足ですが私はnanapi社長日記」のファンです)

nanapi(ナナピ) http://nanapi.jp/

(DoubleClick Ad Planner推定値より)

過去に「ペイドメディア」「オウンドメディア」「アーンドメディア」を指してトリプルメディアという言葉がありましたが(ITmedia「トリプルメディアとその周辺 メディアの多様化がマーケティングにもたらすもの」などをご参照ください)、新しくここに「キュレーテッドメディア(まとめサイト)」を加えたいと思います。その方が整理しやすいからです。私と同様の主張をしている記事から図を引用しておきます。(言葉としては日本語としてわかりやすい「キュレーションメディア」を使います)

(引用元:「Content Curation – Growing Up and Coming of Age」

■SMO(ソーシャルメディア最適化)はユーザーに委ねるのが効果的

前置きが長くなりましたが、検索エンジン全盛期に登場した「1記事◯◯円」というコンテンツファームに対して、ソーシャルメディア全盛期に登場したキュレーションメディアは「獲得したユニークユーザー数ごとに◯◯円」です。ここに時代の違いを反映した最大の違いがあると言えるでしょう。かんたんに言えばキュレーションメディアにおける流入施策のプライオリティは「SMOSEOです。キュレーションメディアではソーシャルメディアからのサイト流入をキュレーターの手に委ねてしまっているのです。「成果に応じてインセンティブをあげるからキュレーターさんSMOをよろしく!」ということです。

ここで重要な点は、SEOをするのはWEBサイト運営者が行うのが当たり前でしたが、キュレーションメディアにおけるまとめコンテンツのSMO(ソーシャルメディア最適化)はユーザーに委ねるのが効果的なのではないかという点です。

この点について元祖キュレーションメディアである「Yahoo!ニュースのトピックス(ヤフトピ)」との比較から考えてみましょう。みなさんはヤフトピのニュースをTwitterやfacebookのシェアから読むことがどれぐらいあるでしょうか。実は巨大なページビュー数の割にはソーシャルメディアのシェアから読む機会がそれほどないはずです。その理由はヤフトピのキュレーターは人数が少なく、それゆえにソーシャルメディア上での影響力が大きくないことにあります。それに対して、キュレーションメディアはキュレーターを膨大に生み出すことができ、その膨大な数のキュレーターたちが参加するソーシャルネットワーク上で自分が生み出したまとめコンテンツをどんどんシェアしてくれるのです。さらに言えば、キュレーター同士の競争が生まれることでトレンドの変化にSMOを柔軟に対応させることができ、また洗練されていくことも大事な点です。

クリエーターとキュレーターは相互依存的関係にある

ここであらためてキュレーターという存在について深く考えてみましょう。コンテンツを生み出すクリエーター、コンテンツを消費するオーディエンスを加えて、コンテンツの流通経路を図示しましょう。

この図からわかることは、クリエーターとキュレーターは相互依存的関係にある点です。これを説明するのには私の所属する出版業界、つまり書籍に例えるのがわかりやすいと思います。本を書くのは作家=クリエーターです。書かれた文章に表紙をつけてパッケージングして書店に流通させるのは出版社(編集者)=キュレーターです。編集者に求められるスキルはどんな文章をどのようにパッケージングしてどこに流通させれば書籍として売れるのか=アクセス数が稼げるのかを戦略を持って考えることです(できていない編集者が多いというツッコミはご遠慮ください、そのとおりですので笑)。

では書籍とまとめコンテンツの違いは何か。これが重要です。書籍はコンテンツとして一つの形に完成されている必要があります。一方、まとめコンテンツはリンク先にコンテンツがあればいい、つまり書籍に例えれば「表紙(=タイトル)と目次(=リンク集)があればいい」のです。クリエーターとキュレーターの分業が明確に存在するインターネットの世界では、金銭を介することなくこの相互依存的関係が成立します。ただし、まとめを見て満足してしまうようなもの、例えば「写真画像まとめ」などはこの関係性のバランスを崩しかねないまとめコンテンツです。写真画像のキュレーションサイトpinterest(ピンタレスト)の著作権問題が議論されるのも、こうしたパワーバランスの悪さに由来する部分があります。インターネットにおけるクリエーターとキュレーターの綱引きはこれから始まるのかもしれませんね。

■NAVERまとめのアクセス数が伸び続けるために必要なこと

さて、続けてキュレーター(まとめ作成者)にとってのインセンティブを、クックパッドvs楽天レシピのNOTEでご紹介した「インセンティブデザイン」のフレームワークから考えてみましょう。

キュレーターは、左上の「マネタリー×パーソナル」と右下の「ノンマネタリー×ソーシャル」の二つのインセンティブが該当するのではないでしょうか。マネタリーは冒頭で紹介した「まとめページが獲得したユニークユーザー数ごとに◯◯円」という換金可能なポイントですが、キュレーションメディアにおける「ノンマネタリー×ソーシャル」のインセンティブは何でしょうか。かんたんに言えば、アテンションを得ること、つまり人から注目を浴びることです。ページビュー数が上がる、たくさん「いいね!」が押される、ツイートされるなどのフィードバックが、そのまま強いインセンティブとして機能します。

二つのインセンティブが存在する場合、長期的に見るとキュレーターの動機づけはどう変化していくのでしょうか? 最初に書いた結論を思い出してください。「(運用次第では)NAVERまとめのアクセス数は伸び続ける」でした。そうです。「運用次第」でキュレーターがキュレーションを続けてくれるかどうかが決まります

どうやって運用していけばよいのかについては、正直なところ細かくて書ききれません。まとめ作成者(ユーザー)の行動データを見られるサイト運営者のNHN Japanが考えていかれることかと思います。ポイントだけ言えば、最初に考察したようにキュレーション(まとめ)が「頭も体も使う」作業ですので、二種類のインセンティブをうまく使い分けていくことが大切でしょう。新規のユーザー数獲得のためにマネタリーインセンティブでブースト(急増)した後は、まとめ作成者のインセンティブを徐々にノンマネタリーに移行していくなど。ノンマネタリーインセンティブの一例をいえば、高い実績を持つまとめ作成者がよりまとめをつくりやすくできるツールの提供、そうしたVIP向けイベントの開催などです。直接的な金銭ではない形で、優良なユーザーを優遇していくことが徐々に求められることでしょう。

「ソーシャルメディア=人」という資源獲得競争の時代へ

では、「はてなまとめ(仮)」など後発のキュレーションメディアは「NAVERまとめ」勝てないのでしょうか。まだ勝てる余地はあります。なぜなら、「NAVERまとめ」にもまだ隙があるからです。例えば、キュレーターが他のキュレーションメディアに移籍するスイッチングコストがさほど高く設定されていません。こうしたキュレーター(プレイヤー)を動機づける仕組みに関するフレームワークはゲーミフィケーションという分野に洗練されたゲームのノウハウが蓄積されていますので、「NAVERまとめ」に勝てるキュレーションメディアをつくりたいご担当者の方、このNOTEを偶然にでも見られたらぜひご一報を(笑)。基本的にはユーザーの行動データを見ながらチューニングしていくのがベストですので、ここでは深入りしません(できません)。

最後に、キュレーションメディアはSNSのようにジャンル別に細分化されていくかどうかを考えたいと思います。例えばレシピはどうでしょうか。すでに「クックパッドまとめ 2000人以上が絶賛した人気レシピ集」のように、「NAVERまとめ」にまとめが存在します。残念ながら「検索エンジン=キーワード」という資源獲得競争にプライオリティがあった時代とは違い、「ソーシャルメディア=人」という資源獲得競争である今、キュレーションメディアに細分化はなさそうです。2chまとめサイトのジャンルがある程度細分化して存在してこれたのも、キュレーターが限られ、リアルタイムのソーシャルメディアが普及以前だったからでしょう。キュレーションメディアがプラットフォーム型に移行しつつある中では、少し物騒な言葉を使えば「人々を動員する力」こそがキュレーションメディアに求められることです。ここらへんはぜひ、AKB48から学びましょう。

タイトルに「研究」と銘打った以上、非常に長文になってしまった点はご容赦ください。まあNOTEはいつも「長すぎるwww」と言われてきましたが。まさにNAVERまとめ」のまとめにようになりましたが、いかがだったでしょうか。

ご連絡や感想はいつもどおりTwitterhttp://twitter.com/ro_mi)やFacebookhttp://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせくださいませ。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります。

■告知など

最後に告知です。日本初となる大規模なゲーミフィケーションに関するビジネスカンファレンス『ゲーミフィケーションカンファレンス 20122012628日(木)10:3019:00@六本木 東京ミッドタウン ヤフー株式会社 セミナールームで開催されます。

米国からもゲーミフィケーションビジネスの一線で活躍するキーパーソンが来日し、一同に会してゲーミフィケーションを議論する貴重な場となります。私も運営委員会のメンバーとして参加しています。5月中には席が埋まるのではないかと集客の担当者から聞きました。会場が決まっている以上、席を増やすことはできないと思いますのでお早めにお問い合せください。詳細はこちらへ「ゲーミフィケーションカンファレンス2012」特設ページ

個人的には2011年9月に米国ニューヨークで行われた「ゲーミフィケーション・サミット」に参加したときに、もっともプレゼンテーションがおもしろくて、自分のためにもなったLithium社のMichael Wu氏が来日されることにワクワクしています。私自身のゲーミフィケーション・プレゼン資料のなかでも、よく引用させていただいている彼のカッコイイ言葉をご紹介します。おかげさまで本業(本の編集)で担当させていただきました書籍『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える』は日経新聞・朝日新聞をはじめ各メディアから本当にたくさんの書評をいただき、3刷まで増刷を重ねることができました。書籍を読んでいただいたみなさまには、この場を借りてお礼申し上げます。

また、4月に新しい書籍『ゲームにすればうまくいく ゲーミフィケーション9つのフレームワーク』を担当しました。「ゲーミフィケーションカンファレンス 2012」運営委員会の中心でもあり「gamification.jp」の編集長、また日本におけるゲーミフィケーションビジネスの第一人者である深田浩嗣さんに書いていただきました書籍です。同書はAKB48など身近な例を題材にゲーミフィケーションをわかりやすく解説した入門書です。ゲーミフィケーションについての予備知識が曖昧な方にはオススメします。

このNOTEに出てくるリンクを「NAVERまとめ」にまとめてくれる敏腕キュレーター大募集。嘘です。ではまた。

■追記1(2012/05/10)

【誤】「NAVAR」→【正】「NAVER」でした。すでに文章上はすべて修正しております。関係者の皆様、大変にご迷惑をおかけしました。お詫びして訂正致します。

1月 24

なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?

『9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方』は50万部を突破したそうです。すごいですね。私も読みました。著者の福島文二郎さんはこう述べています。

「ディズニーランドで働いている人のうち、正社員は2000人程度。それに対して、アルバイトが1万8000人程度います。しかも、正社員の中には、バックオフィス業務を担当する人間もいますから、ゲストが直接顔を合わせるのは、ほぼ100%がアルバイトなんです。」(参考:中経出版「特集ページ」より)

2011年4月の顧客満足度調査によると「顧客期待/知覚品質/クチコミ」でNo.1、全体でも2位と高い顧客満足度を維持していることがわかっています。東京ディズニーリゾートに行ったことがある人ならば、そのサービスレベルの高さはよくご存知かと思います。(参考:サービス産業生産性協議会ニュースリリース「2010年度日本版顧客満足度指数の発表」

■なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?

ビジネス書や自己啓発書でも「ディズニー」は定番中の定番で、ディズニーテーマパークに存在する行動規準「SCSE」、すなわちSafety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)に基づく、スタッフのコーチングの話を書いた本はたくさん出版されています。カストーディアル・キャスト(清掃員)についての感動物語は有名ですね。こうした本が数年に一回、ベストセラーになるのもファンが多い証拠なのかもしれませんね。(参考:オリエンタルランドHP「行動規準SCSE」

しかしながら、ディズニーを真似て成功した話はそれほど多く聞きません。いくらディズニーのホスピタリティは「相手に対する主体的な思いやりだ」と言われても、なかなか行動にはうつせないものなのだと思います。それを実現する仕組みは何か? ビジネス書をいくら読んでもわからなかったのですが、ディズニーキャスト(アルバイト)募集サイトを見て「これか!」と思いましたのでNOTEに書きたいと思います。

(引用元:東京ディズニーリゾート キャスティングセンター「キャスト特典」ページの一部)

ディズニーにはファイブスタープログラムという表彰制度があります。同制度はファイブスターカードと呼ばれるカードを、上司が素晴らしいパフォーマンスをしていたキャスト(従業員)に手渡しますカード1枚で毎月抽選で非売品のノベルティーが当たるようになっており、5枚たまると年に数回行われる「ファイブスターパーティー」へ招待されるそうです。(資料を参考に記述しておりますが、もしディズニーリゾートのキャストの方がいらっしゃれば、現在でもこのインセンティブになっているのか教えて下さいませ)

さらに、キャスト同士がお互いのパフォーマンスをたたえ合うスピリット・オブ・東京ディズニーリゾート、長時間勤務を表彰するサービス・アワード・プログラムでは、上記にあるようなピン(バッジ)が贈呈されます。英語・中国語・韓国語でゲストサービスができるキャストにはランゲージピンというものあります。

こうした仕組みによりアルバイトであるキャストはさまざまな「フィードバック」を時間を置くことなく受けることができます。NOTEの読者の方なら「ピン」ときている方もいらっしゃるかもしれませんが、こうした仕組みはゲームの基本的な構造である「プレイ&フィードバック」のループ構造に似ています。カードやピンをもらえればもらえるほど、もう一枚カードを、もう一個ピンをもらおうと、よりホスピタリティのあるパフォーマンスをしようと心がけるようになるのです。(参考:NOTE「楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?」

また、バッジで達成感を可視化するのはゲーミフィケーションの定番テクニックでしたね。また、「ファイブスターパーティー」はいわゆる航空会社などのファーストクラス・ビジネスクラスの優先搭乗や空港ラウンジ(VIPルーム)にも似た「アクセス(Access)」の権利を与える形式のインセンティブとなっており、これもゲーミフィケーションにおける高度な動機づけのテクニックの一つでした。ひとまずここでは「ディズニー」がゲーミフィケーションかどうかは置いておきましょう。後ほど見解を述べます。(参考:NOTE「なぜゲーミフィケーションは効果的なのか?」

■公開から6か月で1000万件の累計ダウンロード数を突破した「LINE」は即レスが基本

「プレイ&フィードバック」においては、そのスピードの速さが特に重要です。たとえば、最近、私は「LINE」というアプリで家族との連絡のやり取りをするようになりました。

(引用元:「LINE(ライン)-無料通話・無料メールアプリ」

このサービスはベッキーのテレビCMで認知度を上げ、公開から6か月で1000万件の累計ダウンロード数(iPhone/Androidアプリ総計)を達成したそうです。(参考:ORICON STYLE「公開6ヶ月で1000万DL達成 『LINE』が週間1位に」

このアプリで「すごい!」と思ったのは「スタンプ」という機能です。「絵文字」に近いのですが、「スタンプ」のすごいところはそれを一つを送るだけで用が足りてしまう点です。しかも「スタンプ」は「絵文字」と違いメール本文とは切り離されて存在してます。つまり、「スタンプ」は押すとその「スタンプ」だけで相手に送信されるのです。

使ってみた感想は、コミュニケーションの取り方がメールやSMS(Short Message Service)とは圧倒的に異なると感じました。こちらがスタンプを一つ押せば、相手もスタンプ一つで素早く返ってくるため、基本的に即レスです。どんな言葉を返そうか悩む時間を必要としないのです。

Facebookを使う人が多くなったので、みなさん感じていることかもしれませんが、「いいね!(Like)」を押されるとうれしいものです。「いいね!」が速ければ速いほど、量が多ければ多いほどうれしいことでしょう。「いいね!」は相手のメッセージを「読んだよ」という意味で押すことも多く、わざわざメールで返すほどではないときにはとても便利です。フィードバックを送る敷居を極端に下げているという意味ではFacebookの「いいね!」も「LINE」の「スタンプ」も同じです。一方。Twitterもリツイートなどのフィードバックで相手が読んだかどうかを知ることができますが、読んだかどうかわからないのがTwitterの特徴でもあります。結局のところ、フィードバックの速度が速くて量が多いソーシャルメディアに人が集まるものなのかもしれませんね。(もっとも、Twitterも2011年11月のバージョンアップで「アクティビティ (activity)」が追加され、「@つながり」を見れば誰にフォローされたか、誰がツイートを「お気に入り」に入れたかがわかり、フィードバックの可視化が進化しました)

前置きが長くなりましたが、「ディズニー」における人材マネージメントの基本はフィードバックを速く、量を多く、目に見える形にすることにあるのだと思いますこれが、ディズニーの9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できる秘密の一つではないでしょうか。

■今トレンドとなっている「ゲーミフィケーション」は何が違うのか?

さて、「ディズニー」はゲーミフィケーションと呼んでもいいのか。結論から言えば、定義はありませんのでどちらでもよいと思います。「AKB48」はゲーミフィケーションなのではないか? スタンプカードはゲーミフィケーションなのだろうか? という議論と同じです。ポイントは、今さまざまな事例が出てきているトレンドワードとしての「ゲーミフィケーション」とどんな点で違うかを知ることでしょう。一つだけ考えてみたいと思います。それは「コンピュータが介在する」という点です。

「メールが来ないと不安」という人が若者に多いと言われていますが、理由を考えたことはありますか? 私見になりますが、もしかしたら「ゲーム」というメディアに親しむ世代「ジェネレーションG(「The Generation Game」の略=ゲーム世代)」だからなのかもしれません。なぜなら、「ゲーム」は人ではなく「コンピュータ」が相手をしてくれるメディアだからです。コンピュータ・ゲームはボタンを押せばコンピュータが何らかのフィードバックを返してくれます。大人気のアプリゲーム「おさわり探偵 なめこ栽培キット」で画面をさわれば、「なめこ」が収穫できるのといっしょです。

一方、メールであれば、相手である「人」が返してくれないと始まりません。テレビなどのマスメディアも当然ながらフィードバックがほとんどないメディアです。「ゲーム」に慣れ親しんだ世代にとって、何らかのフィードバックがすぐに返ってこないことは非常に気分の悪いことなのだと思います。「堪え性がない」としばしば指摘される所以です。

「コンピュータが介在する」という点について、ゲーミフィケーションと呼べる典型的な例で説明してみます。アディダスジャパンが2011年12月に発売した「miCoach CONNECT」です。

いわゆるランニングをサポートするアプリですが、センサーによって記録された心拍数や速度に応じて、その人に合った運動プログラムをデザインしてくれます。そのプログラムに応じて、スマートフォンのアプリ=コンピュータがユーザーを「コーチング」してくれるのです。コンピュータが常にフィードバックを返してくれることが、ランニングという行動を継続的なものとすることに非常に重要な役割を果てしています。(参考:日経経済新聞「人間が情報端末に、ヘルスケアの進化促す近未来探訪(1)センサーとクラウドで生活が変わる」

「プレイ&フィードバック」のフレームワークから見れば、ユーザーがプレイしたことに応じて、一定のルールをもってコンピュータがフィードバックを返すのがゲームでありゲーミフィケーションではないでしょうか。今、日本でもトレンドになりつつある「ゲーミフィケーション」についても、「コンピュータが介在する」かどうかの視点で見ると、ある一線が引けるのではないかと思います。しかしながら、「ディズニーはゲーミフィケーションだ!」「AKB48はゲーミフィケーションだ!」として議論することにも深い意味があると思っていますので、ぜひ考察を続けましょう。

■【告知】ゲーミフィケーションに関わる本の著者が一同に会す夜「ゲーミフィケーション・パーティナイ(Gamification Party Night)」イベント開催

私の本業は書籍の編集者です。ゲーミフィケーションについてNOTEをたくさん書いてきましたが、1月27日に発売となる『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える』(Amazonへリンク、アフィリエイトではありません)という書籍で一つの形となりました。私の書いているゲーミフィケーションに関するNOTEのアイデアは、書籍の著者である国際大学GLOCOMの井上明人さんとの議論の中で生まれたものでもあります。今回の「ディズニー」の話も、あたかも自分が考えたように記述しておりますが、著作権は井上明人さんにあると考えてます。「ディズニー」の話は書籍の中でも、このNOTEの議論とは異なりますが、現在のゲーミフィケーション事例と比較しながら、さらに丁寧に深く掘り下げて議論されています。(もちろん井上明人さんはゲーム研究のプロフェッショナルですから!)

ここで告知ですが、その井上明人さんがゲーミフィケーションのUstreamイベントを開催します。2012年1月25日(水) 19:00~21:30に放送される予定です。

国際大学GLOCOMの井上明人さんの他、ジェイン・マクゴニガル『幸せな未来は「ゲーム」が創る』(早川書房)を翻訳し『シリアスゲーム』(東京電機大学出版局)などの著作がある東京大学特任助教の藤本徹さん、『デジタルゲームの教科書』(ソフトバンククリエイティブ)の株式会社グルーブシンク代表の松井悠さんといったゲーミフィケーションに関わる本の著者が一堂に会するイベントとなります。ゲームへの深い理解を持つ方々ばかりなので、私自身もとてもエキサイティングに待ち遠しく思っているイベントです。

Ustreamイベント詳細はこちらでご覧ください。


私が編集を担当しました書籍『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える』(Amazonへリンク、アフィリエイトではありません)は、ゲーミフィケーションを使って新しいサービスを考えている方に向けて、またゲーミフィケーションとは何かを知りたい方に向けて、井上明人さんが数百時間という膨大な時間を費やして書き上げた本です。ゲーミフィケーションの可能性を信じている方々のお役に立てる本になったと思っております。この本を読んでいただいた方々が、社会やビジネスにおいて新しい価値を生むようなゲーミフィケーションのサービスや製品をデザインしていただけるようになれば、著者である井上明人さんにとって、また、編集者である私にとっても幸せなことです

最後に。私自身が「ゲーミフィケーション」に関連したイベントに登場する機会をいただいておりますが、基本的にはプロフェッショナルである井上明人さんに登場していただくべきだと考えております。もし、イベントでのプレゼンテーションをお願いするため、井上明人さんを紹介してほしいといったリクエストでしたら、喜んでご紹介いたしますので、Twitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてご連絡ください。よろしくお願いいたします。

P.S.

もし、書籍『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える』を読んでいただいた方で読んだ感想などあれば、著者にお伝えさせていただきますので、FacebookやTwitterを通じて、ぜひお聞かせください。たのしみにしております。

楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?(The reason Rakuten-recipe can’t beat Cookpad)

楽天レシピは2010年10月1日にオープンしました。レシピ投稿は50ポイントつくったよレポートはレシピ投稿者とレポート投稿者の双方に10ポイントが付与される仕組みでオープンしたことや(ポイントは楽天市場で1ポイント1円)、楽天が約7000万人の会員を持つ巨大プラットフォームであることから、「クックパッドを抜く」とまで騒がれたものです。(参考:cnet「『年内にクックパッド抜く』―楽天レシピ、ポイント連動で攻勢」

それも今は昔。いまさら誰も騒ぎませんが、楽天レシピがクックパッドに勝てる気配は見られません。

楽天レシピ http://recipe.rakuten.co.jp/

クックパッド http://cookpad.com/

(ともにDoubleClick Ad Planner推定値より)

ともに推定値で、楽天株式会社は楽天レシピについては情報をほとんど出していないので実数はわかりませんが、クックパッド株式会社はIR情報の説明資料を見れば、その安定成長ぶりは明らかです。特に有料会員は好調で、2012年4月期の四半期で5億4200万円の売上、プレミアムサービスが月額294円で計算すると、概算で60万人以上の有料会員がいることになります。広告・マーケティング支援事業の収入を有料の会員事業が上回っていることを知る人がどれぐらいいるでしょうか。いまやAttention(露出)の獲得よりもEngagement(関係性、絆、エンゲージメント)によってマネタイズする時代が来たのかもしれません。

■楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?

楽天レシピがクックパッドに勝てないいちばんの理由は、もちろんSEOでしょう。レシピ数と歴史で勝るクックパッドを検索順位で上回ることはかなり難しいと思います。また、株式の上場、企業との商品開発などを通じてオンラインからオフラインへ露出が増えていることも挙げられるでしょう。

それでもなお、一年前のあのとき「楽天レシピはクックパッドを抜くんじゃないか」と私たちを思わせたのは、「楽天スーパーポイント」という直接的な換金性が持つ動機づけの強さを知っていたからでしょう。約7000万人という会員に金銭的な動機づけで楽天レシピのサイトに誘導できる。全く同じ構造のサイトで同じレシピの投稿をするならお金にならないクックパッドより楽天レシピに投稿するに決まっている。これだけのアドバンテージがあればいくらなんでもクックパッドもやばいだろう。そう思っていたはずです。

ところが、楽天レシピはクックパッドを抜けなかった。その理由を考えていくと、「人間の動機づけとは何か?」という深い問いにつながっているのではないかと思いました。

■たのしい仕事を退屈なものに変えてしまう〈ソーヤー効果〉

もともとレシピの投稿は工夫のしどころが多い創造性の高い作業です。「どうやったら、おいしくなるのかな」「調味料の分量を変えてみるか」「こうしたらもっと時間短縮になるかもしれない」など、人によってはたのしい時間になるものだと思います。そうして考案したレシピをサイトにのせると、他のユーザーから「つくってみました」という報告がくるように楽天レシピ・クックパッドともにできています。そうした他のユーザーからのフィードバックは素直にうれしいものです。行動経済学者の言葉を借りれば社会規範に基づくインセンティブがうまく機能しています

ところが、楽天レシピはそこに「楽天スーパーポイント」という市場規範に基づくインセンティブが用意されています。「レシピ投稿は50ポイント、つくったよレポートはレシピ投稿者とレポート投稿者の双方に10ポイントが付与される仕組み」です。多くの心理学者や行動経済学者が実験で証明しているとおり、報酬が金銭的インセンティブに変わると、「たのしみ」でしていた作業は「報酬をもらうため」という別の動機づけに置き換えられてしまい、とたんに「たのしくなくなる」のです。

こうした外発的インセンティブがもたらすネガティブな影響について、言葉こそありませんが、ダニエル・ピンクが著書『モチベーション3.0』の中でマーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』におけるエピソードになぞらえて〈ソーヤー効果〉と呼んでいましたので、仮にそう呼ぶことにしましょう。

■ビジネスが陥りがちな罠

〈ソーヤー効果〉はビジネスにおける多くの場面で考えなければならない話かもしれません。実際に楽天レシピのサイトを見てみると、「レシピ投稿」ではポイント獲得を目的としているように見える料理の手順が一つしかないレシピ、また「“つくったよ”レポート」でも二重投稿に近いレポートなどが散見されます。そう感じられるのは全てではありませんが、少なからずそう感じられる部分に出会えば出会うほど、せっかく「たのしみ」で投稿した人が、「ああ、ポイント獲得の人たちか」と残念に思いサイトを離れていくことになり、残った人たちはポイント獲得に動機づけられている人たちが多くなるといったループが金銭的インセンティブに基づくコミュニティーを強化していきます。(注:楽天レシピのビジネスモデルを否定するものではありません。短期間にあれだけの集客力を獲得できた点や、多角的に収益を上げられる仕組みなど、個人的には優れたビジネスであると考えています)

短期的に見て外発的インセンティブが効果的なのは楽天レシピのオープン後の集客力を見れば明らかです(参考:ネットレイティングス「レシピサイトに参入した『楽天レシピ』が訪問者数を拡大中」)。しかし、また長期的に見れば外発的インセンティブが大きな効果を生まないことも明らかになってしまったのではないでしょうか。(もちろん、レシピ投稿に1000ポイントもらえるならば話は変わったかもしれませんね)

こうした意図に反する結果はCGMサイトに限らず、あらゆる事例に見られます。会員獲得など短期間で効果を上げるべきものならばOKかもしれませんが、長期的に顧客やユーザーとエンゲージメントを築くべきビジネスは、〈ソーヤー効果〉の罠に陥らないように気を付けなければなりません

■ゲーミフィケーションは動機づけ(インセンティブ)をめぐる議論

なぜこんな話をしたかといいますと、ゲーミフィケーションについて思いをめぐらせていたからです。ゲームのプレイは「たのしみ(Fun)」を動機づけとします。また、そのフィードバックがあるからこそ、またプレイしたくなるともいえます。レシピ投稿をプレイに見立てれば、「つくれぽ」「“つくったよレポート”」と「楽天スーパーポイント」はそのフィードバックとして捉えられます。ゲームの基本的な構造は「プレイ&フィードバック」のループ構造になっています。

また、そのフィードバックとなるインセンティブのデザインがゲームを長期的にたのしめるかどうかを決めます。そして、ゲームが私たちを驚かせるのは「カタチのないものになぜ人はお金を払うまで動機づけられるのか」という点でしょう。ソーシャルゲームがバーチャルなものへの課金で莫大な利益をあげている事実を知れば知るほど、その謎を知りたくなります。(参考:イン・ザ・ループ「【2011年11月最新版】直近決算発表に基づくmixi、GREE、Mobage、Amebaの業績比較」

フィードバックとしてのインセンティブのデザインを考えるにあたって、上記ようなマトリックス図を実験的に作成してみました。この図に基づけば、楽天レシピがとったポジションは「パーソナル×マネタリ―」のインセンティブで左上、クックパッドがとったポジションは「ソーシャル×ノン・マネタリー」なインセンティブで右下と対称的なポジションです。マネタリーであるほど短期に効果を上げ、ノン・マネタリーであるほど長期に効果を上げるのかもしれません。また、一部のRMT(Real Money Trade)を除けば、ゲームは基本的に「パーソナル×ノン・マネタリー」な左下のポジションをとっているといえます。フィードバックとなるインセンティブがノン・マネタリーだからこそ、ゲームは効果的なのかもしれません。こういったゲームやゲーミフィケーションをめぐる議論はまだこれからです。

■ゲーミフィケーションという言葉の定義にこだわない

クックパッドや楽天レシピをとりあげて「あれはゲーミフィケーションだ」などとことさら取り上げて、さも新しいかのように語るつもりはありません。ゲーミフィケーションのフレームワークは「人間の動機づけとは何か?」を議論するのに、とても直感的で便利だというだけです。ある現象を〈ソーヤー効果〉とラベリングしてみるようなものです。むしろ大切なのは言葉ではなくて中身です。ゲームを通じて得られるゲーミフィケーションのフレームワークを使うと、どういったビジネスの可能性や改善点が見えるのか。また、そのための仕組みはどうあるのがよいのか。本質的な議論がこれから日本でもっと盛り上がるといいなあと思います。なお、ゲーミフィケーションにまつわる話は過去のNOTEもご参照ください(参考:NOTE「進化するゲーミフィケーション」「なぜゲーミフィケーションは効果的なのか?」)。また、エンゲージメントとは何かを考える話も過去のNOTEをご参照ください。(参考:NOTE「ゲーム・チェンジ」

さて、ゲーミフィケーションの応用が可能だと考えられている分野を見てみますと、

・ローカルディール(店舗、位置情報系)

・Webコンテンツサイト

・エンタープライズ向け(会社と社員のエンゲージメント)

・医療/ヘルスケア/フィットネス

・教育

・環境/社会活動

・ライフスタイル

長期的な動機づけが求められる分野が多いことに気づきます。例を挙げればきりがありませんが、元Google HealthのAdam Bosworth氏は健康の維持増進のためのゲーム「Keas」をつくるにあたって、TechCrunchのインタビューで「人びとは、自分の健康を測定したり数値で把握したいとは思っていないことを発見した。そこでKeasをゲームにした。」「人は、データを保存することではなく、楽しいことを求めているのだ。」といった主旨の発言をしています。なお、個人用医療記録サービス「Google Health」がサービスを終了する決定を出していることは周知のとおりです。(参考:「元Google HealthのAdam Bosworthが“健康ゲーム”Keasを立ち上げ」

ゲームのようにプレイ(行動)を「たのしむ(Fun)」、ゲームのようにフィードバックがある、ということが求められる時代になったのだと思います。ゲーミフィケーションが登場した環境要因や、なぜ今ゲーミフィケーションなのかといった話はまたの機会としたいと思います。(むしろ1月に発売を予定している私が編集を担当している本を読んでいただく方がわかりやすいです。著者の井上明人さんはここらへんの説明が抜群にうまいです)

■【告知】「Gabe Zichermann氏来日イベント」

去る2011年9月15・16日、私は米国ニューヨークで行われた「Gamification Summit」に参加しました。そのチェアマンを務めたのがGabe Zichermann氏です。(写真壇上のスピーカーがGabe氏です)

Gabe氏はゲーミフィケーションの基本書ともいえる『Gamification by Design』の著者です。私にとっては、インセンティブのマトリックス図を考えるきっかけとなった本でもあります。

そのGabe氏が2011年11月25日(金)17時~19時、「gamification.jp」を運営する「株式会社ゆめみ」の主催で来日イベントを開催します。詳細は「gamification.jp」のこちらのページをご覧ください。料金は事前支払いで7千円です。そして、なぜか私もイベントに参加することになっています(笑)。それもこれもニューヨークの「Gamification Summit」でゆめみの深田さんとゲーミフィケーションについて議論を交わしたことがきっかけですが、微力ながら貢献できるようイベントについて告知させていただきました。

ただし、残席があるかどうか把握しておりません。告知ページを見るかぎり、まだ締めきっている様子はないので申し込めば大丈夫かもしれません。(断られたらごめんなさい、私の告知が遅いせいです…)

ちなみに無料で11月28日(月)に開催されるKDDI ∞ Labo open MEETing Vol.4 「ゲーミフィケーション」満席のようで…NOTEをご覧いただいているみなさま、告知が遅くて申し訳ございません。。。

ご連絡や感想はいつもどおりTwitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせくださいませ。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります。すでにたくさんの方とNOTEを通じて交流をさせていただきましたが、また上記のイベントなどでお会いできることをたのしみにしております。オンラインとオフラインが行き来する、そんな時代をこれからもたのしみます。

■2012年1月24日UPDATE

ゲーミフィケーションに関する新しいNOTEを書きました。ご参考まで。「なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?」