ゲーム・チェンジ(Make the game, Change the world)

(最初にエクスキューズしますが、きょうのNOTEは長いです。しかも、少しむずかしいかもしれません。ある程度の知識と興味がある方とシェアできれば、それでじゅうぶんうれしいです。また、仮説も含んでおりますので、事実誤認があればお知らせください。)

次の時代はゲームがつくる。私はそう信じている人間の一人です。なぜか? うまく解説できている人がまだいないと思います。

ゲーミフィケーションは日本でもバズワードになりました。良いことだと思います。ハイプ・サイクルは急激に熱するところから始まります(ガートナー「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2011年」)。ですが、今回こそは、ぜひ「セカンドライフ(Second Life)」(Wikipediaへリンク)のような一過性で終わらせてほしくない。そう思い、NOTEを書いておこうと思いました。

ソーシャルネットワークの登場で企業はどう変わったでしょうか。Twitter、Facebook、Mixi。企業アカウントを開設し、ページをつくり、ソーシャルメディア運用ルールを社内で整備された企業も多いことでしょう。お金を払ってソーシャルメディアを使うためのトレーニングやセミナーに参加された人もいらっしゃるかもしれません。もしくは、社内でのソーシャルメディア利用が禁止になった企業もあるかもしれません。

それで何が変わりましたか?

直接に顧客の声を聞くことができるようになった一方で、ソーシャルメディアに参加することでリスク要因は増え、人件費は膨らみ、目覚しい効果をあげている企業は少ないと思います。

ソーシャルメディアなんて使わなければよかった。

そんな声も聞こえてきます。日経ビジネスオンラインの「企業に広がるSNS疲れ」(※すべての閲覧には会員登録が必要です)などはそうした潜在的な悲鳴が聞こえたからこその記事かもしれません。

なぜ、企業は新しいメディアであるソーシャルメディアとうまく付き合っていけないのでしょうか?

理由はシンプルです。“効果がいまいち、わからないから”です。もちろん、ソーシャルメディアをコンサルティングする会社の人たちは、きちんと指標(KPI)をつくった上での運用を指導しています。実際にそうした指標で運用している企業も多いことでしょう。でも、やはり“効果がいまいち、わからない”のです。考えれば当然で、ソーシャルメディアでの活動は、それ以前の四大マスメディアやWebサイトと比較すると、売上に直結するものではありません。いわゆる視聴率、部数、ページビュー数などの「インプレッション(IMPRESSION)」では単純に判断できないのです。そうなるとソーシャルメディアを運用することが費用対効果として正しいかの判断がつかないというのもうなずけます。

「だからこそエンゲージメント(ENGAGEMENT)だ」とソーシャルメディアのコンサルティング会社の方々は言うかもしれません。でも、「エンゲージメント」って何ですか?ざんねんながら、なかなか共通認識をつくることができませんでした。

ゲームがこの状況を変えることになる思います。GoogleやYahoo!などの検索エンジンをFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを脅かすようになり、ソーシャルネットワークが広く整備されたからこそ、そこにゲーミフィケーションを加えることができるようになり、「エンゲージメント」が本格的に経済的概念として普及するのです。

具体的に説明した方がわかりやすいので、術語を補助的役割にして比喩的に説明します。

あなたはカフェをオープンしました。まずはオープンしたことをたくさんお客さんに伝えたいと思い、地域の新聞の小さな広告枠に宣伝を出し、折り込みチラシを入れました(マスメディア広告)。Webサイトもつくり(Webメディア)、検索連動型広告や地域のポータルサイトに小さなバナー広告を出しました(インターネット広告)。その効果で、ひと月で1,000人のお客さんが来店してくれました(インプレッション)。

ところが、1,000人来てくれたお客さんのうち、いつも来てくれるようになったのはたったの10人(コンバージョン)でした。これではまずいと考え、フリーペーパーにクーポン型広告を出すことにしました(マスメディア広告)。インターネットも重要だと考え、グルメサイトや飲食店の口コミサイトにもクーポン型広告を出し、さらにグルーポン型のクーポン広告も出しました(インターネット広告)。しかし、また次のひと月に来てくれたお客さんに中で、いつも来てくれるようになったのは、やはりたったの10人でした(コンバージョン)。

オーナーであるあなたは考えました。1,000人のお客さんが来てくれているのに、たったの10人しか常連さんになってくれていない。じゃあ、1,000人の来てくれたお客さんのうち50人に常連さんになってもらう工夫をしよう。

まず、店のレイアウトや内装、BGMや雰囲気を変えました(UIデザイン)。接客も大事だと考え、スターバックスやディズニーリゾートのようにホスピタリティが身体からにじみ出るように店員を教育しました(UXデザイン)。さらに、雑誌などに取り上げてもらいやすいように、メニューに特徴をだしました(SEO対策)。

すると、効果が出てきました。1,000人のうち50人が常連さんになってくれるようになったのです。「なるほど!」とあなたは思います。来てくれたお客さんのなるべく多くを常連さんにしていけばいいのです(エンゲージメントを高める)。じゃあ、100人を目指そう。あなたはそう思い、さらに工夫を考えました。

まず、10個貯まるとコーヒーが1杯無料になるスタンプカードをつくりました(来店ステータスの可視化)。さらにスタンプが10個押されたスタンプカードを10枚貯めると、事前に席を予約できるプレミアムメンバーになれるようにして、会員登録をしてもらいプレミアムメンバーカードを発行しました(来店頻度によるインセンティブデザイン、バッジ、レベルデザイン)。さらに100枚貯めた人はゴールドプレミアムメンバーとして、店が休日のときに貸切パーティーをする会場として利用できるようにしました。

するとどういうことが起きたでしょうか。1,000人の新規のお客さんのうち100人が常連さんになってくれるようになったのです!さらに、ゴールドプレミアムメンバーの人が徐々に増えてくるにつれて、彼らの貸切パーティーであなたのカフェを全く知らなかったお客さんが新しい常連さんになるようになっていきました(バイラル)。口コミサイトの評価もうなぎのぼりです(評価)。まさにあなたのカフェは大繁盛するようになったのです。問題もありました。古参のプレミアムメンバーやゴールドプレミアムメンバーが幅をきかせるようになり、新規のお客さんが減ったのです。そこでオーナーであるあなたはプレミアムメンバーとゴールドプレミアムメンバーの資格を一年限りとして、二年、三年前に常連さんだった人よりも新規で常連さんになった人を優遇するようにしました(最新の価値化)。すると、新規のお客さんも常連さんになりやすくなり、本当の意味においてあなたのカフェは大成功。たくさんの常連さんに親しまれる大繁盛カフェとなったのです(エンゲージメントの持続)。

ここまでの説明でおわかりになった人は、たぶんなんとなく経験値で理解されていたのだと思います。店のレイアウトを変えたり、店員を教育するところまでは今までのWebやアプリの常識です。スタンプカード以下がゲーミフィケーションです(比喩的ではありますが)。

「インプレッション」から「エンゲージメント」の時代へ。ソーシャルメディアが広くネットワーク化された今だからこそ、ゲーミフィケーションの登場がパラダイムシフトを引き起こします。その理由を「CEDEC2011」での講演をまとめたこちらの記事(GIGAZINE:オンラインゲームを「オカンでも説明無しで楽しめる」ように作るためにすべきこと)を参照しながら、簡単にまとめたいと思います。記事の中ではこのように語られています。

「オンラインゲーム運営の目的を一言で言うと”顧客生涯価値(LTV)を最大化すること”です。LTVを上げるために、まず継続率が非常に大事です。オンラインゲームの儲かり方はよく立体グラフで描かれますが、課金率と課金額という2本のグラフがあって、この面積がその瞬間の課金額です。オンラインゲームは継続するので、さらに三次元目に継続率があります。本当はオンラインゲームの収益は三角錐の体積なんです。課金率、課金額、継続率の体積がそのオンラインゲームの基本のポテンシャルになるので、継続率を上げていくと、体積が広がっていくので、どんどん儲かるようになっていきます。課金率、課金額を見て”今日は儲かった”と思って継続率を上げることを軽視しがちですが、実は一番大事なものです。なので、運営が始まったらまず継続率を上げてください。その次に、“継続はもうオッケーだな”と思ってから課金率、課金額に着手していきます。課金率、課金額と言っても、結局はお客様をいかに満足させられるかということに集約されます」

プレゼンテーションは全体としても非常におもしろいものですが、私は特にこの点が重要だと思いました。カフェの比喩でいえば「来てくれたお客さんをなるべく多く常連さんにしていくこと」にあたります。だいたいのコンバージョンレートを想定して、「この売上を達成するためには、このぐらいのページビュー数(インプレッション)がないとダメですね」と、インプレッションを促す広告を出させてたみなさまには耳の痛い話なのではないでしょうか。私もこの考え方に陥りがちでした。

「継続率」は「エンゲージメント」にとって大変に重要な指標です。2011年9月15/16日に米国ニューヨークで開催されていた「ゲーミフィケーション・サミット(Gamification Summit)」の主催者でもあり、『Game-Based Marketing』『Gamification by Design』の著者でもあるGabe Zichermann氏は、「エンゲージメント」の指標をこう定義しています。

・最新であること(Recency)

・頻度(Frequency)

・継続(Duration)

・バイラル性(Virality)

・評価(Ratings)

実はカフェの比喩話の中に上記の指標を取り込んで説明してます。なんとなくわかりましたか?「エンゲージメント」を実現していく方法論は、「ゲーミフィケーション」の知見の中にあり、「ソーシャルメディア」そのものにあるわけではないのです。カフェの比喩でいえば、「ソーシャルメディア」はプレミアムメンバーカードの発行するときの会員登録をかんたんにするためのインフラです。リアルな世界でいえば「TポイントにおけるTSUTAYAが持つ会員情報資産とネットワークシステム」といえばわかりやすいでしょうか。その会員登録がかんたんにできかつ低コストなインフラがある今だからこそ、「ゲーミフィケーション」をより効果的に使って「エンゲージメント」を実現していけるのです。

先週、幸運にもニューヨークへいかせていただきました。本日のNOTEは、その成果の一部(とっても大事な!)です。いま「ゲーミフィケーション」をテーマにした本をつくっています。ただ、本をつくるのには数ヶ月という長い時間を要します。もし、「ゲーミフィケーション」について、はやくもっと知りたいという方がいらっしゃいましたら、Twitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などでいつもどおりお知らせくださいませ。ビジネスランチでもしましょう。ただし「ビジネス」ですので、本が発売された際には買ってくださいね(笑)。会社で100冊以上買い上げていただけるならば、無料でコンサルティングまでいたします、なんてね、ははは。個人的にはとてもいい本になる予感だけはしてます。