タブレットパブリッシングの未来(The Future Of Tablet Publishing)

[GigaOM:「The Future of Media: Brands Are Publishers Now Too」

「iPad向け雑誌に未来はない」ということに私たち出版社は早く気づいた方がいいのかもしれません。もう少し正確に言えば“今の”iPad向け雑誌ですが。「動画や音をつければデジタルマガジンがインタラクティブでリッチなコンテンツになって、そうしたらデジタルマガジンは売れる」と考えている(特に編集者の)方々と情報を共有したいと思い、久しぶりに本業(出版)についてNOTEにとりたいと思います。

米国ではiPadなどのタブレットに向けてデジタルマガジンをつくることを「Tablet Publishing」「iPad Publishing」とか「Tablet Editions」と呼んでいます。微妙にニュアンスは違いますが、従来の紙の雑誌とは違う読書体験を伴うデジタルマガジンをつくることを指します。 

雑誌出版各社はiPadなどタブレット向けにデジタルマガジンをリリースしていますが、売上はそれほど芳しくないようです。こちらのMashableの記事では紙の雑誌が120万人の定期購読者を持つ「Popular Science」のiPad向け雑誌アプリの定期購読者数が1万人を超えたというものです(2011/3/30)。累計出荷台数が2,000万台を超えるiPadでの売上としては、かなり少ない印象を持ちます。

先日、米雑誌大手コンデナストが「ニューヨーカー」など雑誌の一部についてiPad向けの定期購読サービスを提供することでアップルと合意したと伝えられました。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版の記事にもある通り、昨年にコンデナストが発行する「ワイアード」iPad版のデジタルマガジンは動画を入れるなど紙版にはできない新しい表現を携えて華々しくデビューを飾り、創刊号が10万部売れるなど発売当初はかなり売れていました。しかし、その後売り上げは急減。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版によれば「これはiPad版の読者が毎号定価で購入しなければならないことに不満を抱いたためだ」とされており、だからコンデナストがディスカウントの料金テーブルを用意した定期購読を提供することになったと説明されています。

こうしたコンデナストをはじめとした米国の雑誌大手の動きは大きな戦略の転換を意味するのではないでしょうか。つまり、デジタルマガジンがインタラクティブでリッチなコンテンツになれば紙版よりも少しぐらい高くても買ってくれるだろうという見込みが大きく外れたので、やはり紙版の戦略と同じように「定期購読を安くして読者を獲得していこう」ということなのだと思います。

簡単に言えば、読者はデジタルマガジンにインタラクティブでリッチなコンテンツなんて求めていなかったのです。

このThe New York Timesの記事は米書店大手B&Nが出しているNook Colorで女性誌が売れているという内容です。Nook ColorのデジタルマガジンにはiPad版のようなインタラクティブでリッチなコンテンツはほとんど含まれていません。でも出版社のコメントによれば「雑誌によってはiPad版よりも売れている」そうで、つまり紙版と同じ写真と文字の雑誌が読めれば別にいいってことなんだと思います(特に女性はそうみたいです)。

じゃあ別にインタラクティブでリッチなコンテンツにしないで、紙で読む雑誌と同じようなデジタルマガジンを出していればいいかといえば、それもまた違うようです。

いちばん最初に貼りつけたGigaOMの記事は「メディアの未来:今やブランドも出版社だ」というタイトルで、「今まで雑誌において広告クライアントだったブランドなどがデジタルマガジンを出すのではないか」ということについて考察しています。例として挙げられている高所得向けフラッシュセールを展開するギルト・グループは、高級食品を売るサービス「Gilt Taste」[TechCrunchへ外部リンク]のクッキングデジタルマガジンをつくりました。同様の主旨でpaidContent:UK誌の記事も「iPadパブリッシングの未来-インディーズがやってくる」と題して、出版社以外のプレイヤーがデジタルマガジンをつくる未来を予想しています。その理由として「コストが下がる」ことなどを挙げています。つい最近、話題になった『Push Pop Press』[WIRED VISIONへ外部リンク]はデジタルブックのツールですが、なんだかデジタルマガジンもコストが下がるのかもしれないと思えてきますよね。流通上も「App Store」に並べば大手出版社のデジタルマガジンも無名の企業が出したデジタルマガジンも関係ないってことも大きいでしょう。

つまりデジタルマガジンになればそれだけプレイヤーも増えるってことです。競争相手が増えれば増えるほどコストが比較的高い大手出版社は苦しいかもしれません。

さて、ここからが本題ですが「じゃあタブレットパブリッシングの未来は何?」ってことです。残念ながら海外のニュースを追いかけている限りでは、この答えは今のところどの出版社にもありません。

ヒントはiPadでソーシャルストリームやニュースコンテンツをデジタルマガジン風に読むことができる「Flipboard」「Zite」「Taptu」といったアプリの中にあるのではないでしょうか。「Zite」については過去のNOTEでも取り上げましたが、こうしたアプリはTwitterやFacebookでツイートやシェアされたリンク、またRSSリーダーで購読している内容をデジタルマガジン風のレイアウトにしていきます。さらにすごいのは、「Zite」や「Taptu」[TechCrunchに外部リンク]はユーザーがどのニュースに興味があるかを把握して、よりパーソナライズされたニュースやコンテンツをインターネット上から集めてきて表示させます。

つまり、タブレットパブリッシングの未来はパーソナライズにあるのではないでしょうか?

料理雑誌がわかりやすいと思いますので、そのデジタルマガジンを考えてみましょう。この料理デジタルマガジンは朝に開けば朝食の、夜の時間帯に開けば夕食のレシピが並びます。春にはキャベツのレシピが並び、夏には夏野菜。その時期にスーパーに並んでいるだろうものがプッシュされます。地域によってスーパーに並んでいるものは違うので、北海道に住んでいる人と東京に住んでいる人ではプッシュされるレシピは違います。うちの家族は4人なので最初から材料はすべて4人分になっています。そういえばTwitterでフォローしているあの人が昨日つくったトマトパスタのレシピもレコメンドされています。使えば使うほど好みを覚えてくれて、それに応じてパーソナライズされてリアルタイムに編集されるデジタルマガジン。こんなデジタルマガジンがタブレットパブリッシングの未来なのかもしれません。

皆さんはタブレットパブリッシングにどんな未来を描いているのでしょうか?

もしアイデアやご意見などがあれば、Twitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などで話しかけてみてください。ソーシャルメディアな時代だと最近はよく思うのですが、全く知らない方とリアルな場で意見交換などもしてたりします(こわごわ)。また、いつもどおり事実誤認などがあればお知らせいただけると大変に助かります。