なぜ電子書籍は始まらないのか?(Why e-books aren’t popular in Japan?)
[paidContent.org:「New Data Provides Deeper Profile Of Typical E-Book ‘Power Buyer’」]
「書店アプリを提供する」とか中途半端な電子書籍(E-books)への新規参入はもうやめた方がいいと思います。iPadが登場して1年。電子書籍へ参入を表明した企業は数知れず。しかしながら、あれほど騒がれた電子書籍が日本に根ざさないのはなぜでしょうか? その理由について解説があっていいと思うのですが、なかなか見当たらないので自分のNOTEにだけ書きとめておきたいと思います。(※今回のNOTEでは“E-books”を“電子書籍”と表現しております)
英語圏での電子書籍の普及には目覚しいものがあります。
Association of American Publishers(アメリカ出版社協会)の報告書によれば電子書籍のシェアは2010年は前年より164.4%増加し、単純計算すると約8%のシェアを占めております(参考:Publisher Weekly「E-books Boost Sales: From the AAP」)。また、大手出版社ランダムハウスのCEO代理であるIan Hudson氏はUKでの電子書籍シェアを2010年で1-2%、2011年8%、2012年15%と、かなりハイペースでのシェア拡大を予想しています。(参考:paidContent.org「E-book Sales Are Exploding And Hurting Paperbacks」)
なぜ英語圏で急激に電子書籍のシェアが拡大しているのでしょうか?
前提として、電子書籍を読むにはiPadなどのタブレットやKindleなどの読書専用端末=電子書籍リーダー(E-reader)などのデバイスが必要です。つまり、紙の本とは違い、電子書籍があってもそれを表示して読むものがないと成り立ちません。英語圏でE-bookが急激に普及している背景には、電子書籍を読む電子書籍リーダーというデバイスが普及している事実があります。調査会社であるIDCが2011年の3月に発表した調査によると、2010年には1280万台の電子書籍リーダーが出荷されたと報告されています。また、eMarketerがリリースした最新のリサーチによれば、米国の全人口の8.6%にあたる2060万人がすでに電子書籍リーダーを持っており、2012年までに2890万台が普及すると予想されています。電子書籍リーダーは少なくても1人以上で見られていることも忘れてはいけません(参考:paidContent.org「New Stats: E-Reader Usage Growing Much Faster Than Previously Predicted」)。
ここで確認しておきたいのは、電子書籍のシェア拡大を加速させているのは電子書籍リーダーであり、タブレットなどにインストールする“書店アプリ”ではないという点です。
では、誰が電子書籍や電子書籍リーダーを購入しているのでしょうか? いちばん最初に貼りつけたpaidContentの記事は「電子書籍のパワーバイヤー(=ヘビーユーザー)は誰か?」というタイトルで、The Book Industry Study Groupがまとめたレポートを紹介しています。
「少なくても週に1回、電子書籍を購入するヘビーユーザーはロマンス小説が大好きな44歳の女性で、過去よりも今の方がより本にお金を遣っている」そうで、「コンピューターの替わりにAmazon Kindleなどの電子書籍リーダーを愛用している」というのが典型的なヘビーユーザーのイメージ像です。意外なことに「ヘビーユーザーの66%は女性」とのこと。「電子書籍の売れ筋は文芸小説、SF小説、ロマンス小説などのフィクションで、全体の58%を占め」、さらに「18%のヘビーユーザーで全体の売上の61%を占める」と報告されています。このレポートからわかることはガジェット好きが電子書籍を買っているのではなく、普通に本が好きな人が紙の本じゃなくて電子書籍を買っているということなのだと思います。
さて、電子書籍リーダーはなぜBookworm(本の虫)のハートをキャッチできたのでしょうか。理由をかんたんに3つにまとめると、(1)すぐ読める、(2)読みやすい、(3)安い、だと思います。
(1)すぐ読める
電子書籍リーダーの牽引役であるAmazonのKindleには、CEOのJeff Bezos氏が示すあるビジョンがあります。すなわち「“every book ever printed in any language in under 60 seconds.(すべての本を60秒以内に)”」という言葉です。私もkindleユーザーですが、“60秒以内に”ということがすごい意味を持っているなといつも感じてます。これがダウンロードに10分、20分かかっていたら感動はしないかもしれません。間違いなく“買えばすぐに読める”という「Reading Experience(読書体験)」が電子書籍リーダー利用者を増やしていると思います。書店に行っても見つからない、インターネット書店で注文しても届くのは明日だ、という不満を持っていた本好きにとって、これほど強力な体験はないでしょう。
(2)読みやすい
電子書籍リーダーのほとんどは白黒です。これはPCやタブレットなどの透過光とは違い、米国E Ink社など反射光の技術である電子ペーパーを採用しているからです。電子ペーパーは長時間読書しても目にやさしく没頭できるため、本好きにとってはとても心地よい「Reading Experience(読書体験)」となります。ついでに言うと、電子ペーパーは電池の持ちがよく、また電子書籍リーダーは軽いので持ち運びに優れています。
(3)安い
電子書籍リーダーは値下げ競争が続いています。牽引役であるAmazon Kindleは広告付きWi-Fiモデルを114ドル(約9300円)で提供してます。もはやコモデティ化しているといってもいい価格ですね。つい先日も、米書店大手バーンズ&ノーブル(Barnes&Noble)がNookの新機種「Simple Touch Reader」を139ドル(約1万1000円)で発表しましたが、その数時間後にAmazonは「Kindle 3G」の広告付き廉価版「Kindle 3G with Special Offers」を164ドル(約1万3000円)で発売しました(参考:AFPBB News「アマゾンとバーンズ&ノーブル、電子書籍端末、廉価版で激突」)。さらに言えば、電子書籍リーダーだけではなくて電子書籍自体も紙の書籍より安く販売されていることも忘れてはいけません。
繰り返しになりますが、iPadを買っているのはおそらく主にガジェットが好きな男性で、Kindleを買っているのは主にデジタルが苦手だけど本が好きな女性です。“書店アプリ”ではなく“電子書籍リーダー”が電子書籍市場を牽引する理由は明らかではないでしょうか。
さて、日本にも専用デバイスであるSonyの電子書籍リーダー“Reader”やauの“biblio leaf”が存在していますが、前者はWi-Fiや3G回線からのダウンロードができません。後者は3G回線が利用できますが、割引でも525円/月がユーザー負担となってます。すぐにKindleと同等のサービスレベルを提供できるというわけではないようです。もっとまずいのは品揃えです。「デバイスが売れない→品揃えが増えない→さらにデバイスが売れない」という数年前の悪循環をご記憶の方もいらっしゃるかもしれません(参考:ITmedia「電子書籍端末売れず ソニーと松下が事実上撤退」)。
たしかに日本でいちばん売れているデジタルオーディオプレーヤーを持つAppleのiTunesなどになるべく楽曲を提供しないことで、日本は世界でも有数のCDが売れる国として生き残っているのかもしれません(参考:TechWave「クラウド音楽サービスがもたらすものは。【伊藤雅啓】」)。しかし、PCの替わりにCDドライブがないタブレットが普及してしまえばデジタル配信に抵抗することはできないでしょう。遅かれ早かれユーザーにとって利便性の高いデジタル配信が普及するのは間違いありません。電子書籍も同じだと思います。
そろそろ結論です。電子書籍でいちばん大切なことは、著者が書いた言葉を受け取るための「Reading Experience(読書体験)」です。そして、心地よい「Reading Experience(読書体験)」を得られるデバイスは電子書籍リーダー(E-reader)であることもおそらく間違いありません。電子書籍リーダーでなければ本をたくさん購入するヘビーユーザーの心を動かすことはできないでしょう。本好きにとって大事なのは同じデバイスでゲームやインターネットができることでもなければ、読書しながらツイッターのタイムラインを見られることでもないということですね。
最後に。電子書籍リーダーの発売を予定されている企業の皆さま。来年の母の日にはロマンス小説をいっぱい詰め込んだ電子書籍リーダーを、父の日には時代小説をいっぱい詰め込んだ電子書籍リーダーを「ジャパネットたかた」にお願いして売りましょう(笑)。「ジャパネットたかた」は何十冊もの辞書を「これでもかっ!」ってぐらい積み上げて電子辞書を売るそうですよ。
なお、今回のNOTEは電子書籍(E-books)について書くために、データサイズが重いコミックの話を意図的に抜いています(参考:「Kindleでマンガは読めないかもしれない?」)。電子書籍リーダーが日本で普及しない理由の一部分にコミックが関わっていることは理解していますが、長くなるのでやめておきました。また別途議論しましょう。また、電子書籍と電子雑誌との違いがご不明な方は一つ前のNOTE(参考:「タブレットパブリッシングの未来(The Future Of Tablet Publishing)」)をご覧ください。
皆さんは電子書籍リーダー(E-reader)の「Reading Experience(読書体験)」なしに、電子書籍(E-books)が日本に根付くと思いますか?
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